欲望欲情見え隠れ





光は自分の感情を表現するのが苦手だ。
嬉しい時ほどムスッとした顔をするし、悲しい時ほど憎まれ口をたたいたりする。悔しい時も俺には話してくれへんし、俺に冷たく当たる時に限って心の中では自分を責めていたりする。光と付き合いが長くなる度、関係が深くなる度に、少しずつ光の気持ちを理解できるようになっていた。



でも、さすがに今の状況はよくわからない。



「光?どうした?なぁ、なんか喋って」
「………。」
「なぁ、ひかる」



忘れ物をして部室に戻ると、光が一人で残っていた。話しかけようとした瞬間、顔を机に突っ伏してしまい表情が見えない。何を話しかけても返事もない。



光が口下手なのは分かってる。今までそのせいでこいつが辛い思いをそれなりにしてきたことやって分かってる。せやけど、少し腹立たしくも思う。俺になんで話してくれへんのやろって、もっと頼ってくれたってええんやないかって、思う。




「なぁ光、話してくれな分からんやん。」
「………。」
「なぁ、せめて顔上げてや。なぁ。」
「………。」
「…そっちがその気ならこっちにも手ぇあんで」




かたくなに腕を閉めて顔を隠そうとする光のすきを突いて、ひょいっと体を持ち上げた。光はいきなり自分の体が浮いたことに驚いて、顔をようやく上げてくれた。
光は眉間にしわを寄せて、くちびるをぎゅっと噛んでいる。



あぁ…。この顔なら分かる。泣きそうな顔。泣くのを精いっぱい我慢してる顔。



「光、お願い。俺、光のことちゃんと理解したいし、慰めたい。もし俺が原因やったら謝りたい。教えてくれへんかな。」




声を出すと泣きそうなのか、光は無言のまま机の上を指さした。これは、写真部から貰ったアルバム。学校新聞で使わなかった分の試合や行事の様子を収めた部活動写真をまとめて毎年くれるやつ。それを開いて…光がなんでこんな顔をしてるのかつじつまがあった。



「…白石か」




そのアルバムはまだ光が入学する前の年のやつで、俺と白石が一緒に写ってる写真が結構あった。光はきっとそれを心配してる。


俺と白石はまぁいろいろあって、ぶつかりもしたし、お互いを意識して傷つけあったりもしたし、泣かせたこともあるし、泣かされたこともある。そんな風に俺たちは親友になったわけやけど、光はどうも俺と白石のことを以前から心配に思ってるらしい。白石と俺はぶつかりあった分互いの気持ちをよくわかっていて、その上目立つせいでやっかみを受けたりするのが心配で、俺が過保護に白石のこと気にかけすぎたせいやと思う。




「光、心配いらんって。俺と白石は親友やけど、俺が好きなのは光だけやし。な?」
「…ごめんなさい。分かってるんです」



話し始めると、光の目からは涙がこぼれてしまった。



「俺、分かってます。二人が親友やって。謙也さんの気持ちも。せやけど、部長は真っすぐな人で、俺は真っすぐなんてなれへんし。ふたりには俺が知らへん時間もあるし…ときどき、謙也さんが俺やなくて白石部長を選んだらって思うと、俺……!」




光をぎゅうって抱きしめると、思わず顔がにやけた。こんな自分に一生懸命になってくれる存在。いとおしい。いとおしい。



「光はそのまんまでええよ。かわええ。めっちゃかわええ。せやけど、真っすぐやなくていいけど、俺に自分の気持ち伝えたいって思ってくれとるなら、二人のときは我慢せんと泣いてほしいなぁ。」
「そんなん、俺うざいっすわ。やって、」
「うざくないし、光が泣きむしってこともう分かってしもとるからええねん。俺、お前のことかわいっくってしゃーないんやもん。な、お願い」
「…うぇ、ふ、け、やさん…けや、さん…!」
「うん、」
「ぶちょ、よりも…、お、おれのこと、見て…!俺のこと、きらいに、ならんで、くだ、さい…!」



光は自分の感情を表現するのが苦手だ。
せやけど、すごく焦ってる時とか、例えば今みたいに泣きじゃくってる時、自分に余裕がない時は、一生懸命本当の気持ちを言葉にして伝えてくれる。それに優越感やらなんやら覚える俺は、きっと変態なんやろな。




「嫌いになんかならんよ、大好きやで。」



俺は光しか見えてへんけど、光に妬いてほしくてときどき傷つけてることは、これからも内緒にしておこう。
ましてや泣き顔に興奮するなんて、ずっと光には言えへんなぁ。


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