こころさがし









・謙光でクリスマス2011!
・パラレルなのでご注意です












「ごめんね謙也。大好きやったよ。本間にありがとう。」
(ええ奴なんは分かるけど、やっぱり謙也のことは男として見れへんわ。)





付き合って1カ月ちょいの彼女に振られた。長くゆる巻きのかわいらしい髪の毛をいじりながら、大きな潤んだ瞳で俺にそう告げてきたのやった。「そっか、おれこそありがとう。」とは言ったはええものの、俺には彼女の本心がまるわかりやった。こいつ、俺のこと全然好きやなかってんな。




俺は昔から特殊な能力があった。相手の考えていることがわかってしまう、つまり感情を読めてしまうのだ。忍足家にはどうやらこの力が代々受け継がれていくらしく、いとこの侑士にもこの能力がある。あいつはそれを楽しんでいるようやったけど、俺はどうもそれが受け入れられなかった。それこそ昔は相手の感情が勝手に脳内に流れ込んでくるのが気持ち悪くて眠れない日も多かったし、友人のことも信用できなくなるような状態やった。それを見かねた親父が特訓をしてくれて、最近ようやく普段はこの力を封印出来るようになった。


それでもさっきのように心のどこかで「本当はこいつ、何を考えているんやろう」という気持ちが少しでも心の中に生まれてしまうと、勝手に頭に相手の声が再生されてしまう。こっちもいやな気持ちになることが多いし、なにより俺には慣れない罪悪感があった。そんなこともあり、俺はなかなか人ごみに入っていく勇気がない。電車に乗るのもなんとなく恐怖感があり、学校から家までなかなか距離はあるけど自転車通学している。




どうしてこんな特殊能力を持って生まれてしまったのやろうか。こんな力要らなかった。俺は本間に人間味がない人間やと思う。相手の気持ちがわからない、と悩んだこともないし、いつもどこか第三者的な目で自分の人生を見てきた気がする。この能力とともに生きていかなければならないことも分かっている。分かっているけど、受け入れられない。受け入れられないのだ。










「謙也さん、今日俺タワレコ行きたいんやけど一緒行きます?」
「おー、俺も行くわ」
「あれ、彼女ええんすか」
「あー…ふられた。」



部活の後輩の財前光。毒舌で生意気で、それでもやっぱり憎めへんやつ。こいつは実は甘え上手なんちゃうかなーって思う。



「…そっすか。」
「まーしゃーないな!当分部活が恋人やっちゅー話や」
「…どーせ謙也さんアホやからきっと彼女さん呆れてもうたんでしょ。次の練習試合足ひっぱらんといてくださいね」
「へーへー。」




(謙也さんのことふってまうなんて、その女アホやわ。謙也さん、はよ元気になって。あんたのそんな顔、見たくない。どうすればちょっとでも元気になってくれるやろか。俺に出来ること…無い、よなぁ…。)



お前は本間に可愛くないなぁ、なんて言おうとしたら財前の声が頭の中に響いてきた。別に財前の気持ちが知りたい、なんて全く思ってへん。せやけど自然に頭に流れ込んできた、財前の気持ち。こんなの初めてや。
それから俺は、財前の考えていることを知りたいと思うようになったんやった。




「謙也さん今アホっぽい顔しとった」
(よかった、元気そうや)

「謙也さん俺が貸した辞書返しに来てくださいね」
(ついでに昼飯一緒に食べたいんやけど忙しいんかな)

「もういい加減にしてくださいよ」
(あーもう俺のバカ、ごめん謙也さん)

「次の試合足引っ張らんといてくださいね」
(本間は怖い。いくら練習してもダブルスはシングルスより緊張するわ)

「見たいテレビあるんで先帰ってええすか」
(はよ保育園迎えに行ってやらなあかん)






改めて思う。財前は素直になれへんだけで、本間にええやつ。そんで、自分の気持ちを上手に伝えられないやつ。俺はだんだん、財前の気持ちわかってやりたいなって思えるようになった。少しずつ気にかけて、少しずつ、あ、こいつかわええやんって思えるところが増えて。気になる存在と言うやつになっていったのやった。







「えークリスマスまで部活かいなー」
「アホ。クリスマスなんか関係ないわ。ちゅーか謙也彼女おらんやろ。無駄な悩みっちゅーもんや」
「もーうっさい白石!」



 少し前まで肌寒かったくらいやったのにあっという間に寒くなって、クリスマスを目前に控えていた。このころには俺はもうかなり財前を気にかけるようになっていた。



「財前帰ろ」
「ちょぉ待ってください。あんた早すぎや。」
「帰り鯛焼き食って帰る?」
「…行く」
(鯛焼き!食べたい!あんこ!)


「ぷっ…お前本間にかわええなぁ」
「は?なにがっすか」
「いや、こっちの話。ほら、行くで」








「謙也さん、クリスマスなんか予定あるんすか」
「へ、なんで?ないで」
「やって白石部長に文句言っとったから」
「あー、気分的な問題や。クリスマスやのに部活に勤しむ自分が誇らしくもありちょっぴり切ない…的な話やな」
「はぁ。謙也さんって本間思春期っすね」
「お前もやん」



鯛焼きに思いっきりかぶりつく財前。もぐもぐしとる白いほっぺたがかわええ。口の横にあんこ付いとったからおもわず手を伸ばして取ってやると、大げさに肩を震わせたもんやからこっちまで少し気まずいような気分になってまう。



「…あ、そーいや財前はどうするん?クリスマス」



「あー…うち、俺以外のみんな泊まりでディズニー行くらしいんすわ。甥っ子がどうしても行きたいって駄々こねて。クリスマスにディズニーなんて人ごみ絶対やばいから行きたくないし部活あるし、俺だけ残ることになったんすわ。今年は気楽でええわ。」
(一人でクリスマスなんて初めてやし、本間はちょっと心細いけど。)



「財前、うち来ぇへん?」
「は?」
「クリスマス。どうせコンビニで飯買うて一人で食うんやろ。そんなん寂しいやん。」
「別に気遣ってくれんくて大丈夫です」
「別に気なんて遣ってへん。俺のおかんもお前のこと気にいっとるし、多いほうが楽しいし。な?ええやん?」



「…ほな、お言葉に甘えてお邪魔します。」
(あかん。嬉しい。嬉しい。嬉しい。)





なんてかわええんやろう、と思う。財前のことをすっかり好きになってしまった自分を、もうごまかせそうにない。自分はおかしな能力を持っているし、それに加えて財前は同性。でももうそんなの気にしてられへん。他人と関わることを恐れて自分が本当に欲しいものを濁し続けてきた自分が、初めて素直に思った感情やった。付き合いたいとかそんなことまで言う気はない。
財前に、好きやって言いたい。










「お邪魔します」
「おー!まぁ入れや!」
「財前くんよぉ来たね!ゆっくりしてってな」
「すみません、急に」
「ええのええの!誘ったのうちの謙也やし、おばちゃんも財前くんが来てくれるなら大歓迎やわ!」
「あー財前くん来とるやん!なーあとで一緒にゲームしよ!」
「翔太。久しぶりやん」



財前が俺の家族と話をしながら楽しそうな表情を浮かべている。本当ん楽しんでるかな、無理させてないかなって思った瞬間、(謙也さん、ありがとう)って心の中に声が流れ込んできて。ありがとうはこっちの台詞や。財前、ありがとう。今日だけやない。人間味が欠けていた俺に、好きにならせてくれてありがとう。俺のこの気持ちが財前に受け入れてもらえないこともわかってる。きっと困らせる。でも俺は伝えたい。財前に好きやって、自分の言葉で伝えたい。











「はー、腹いっぱい。」
「謙也さんのおばちゃん本間料理上手っすね」
「それ本人に言ってやって。めっちゃ喜ぶで」
「…謙也さん。今日、ありがとうございました」
「いや、こっちこそ来てくれておおきに。…財前、これ。もらってや」


飯も風呂も終わって、俺の部屋であとは寝るだけって状態。財前が珍しく素直にお礼を言う。俺は少し緊張しながら、財前に小さな箱を渡した。クリスマスプレゼント。数日前、一緒に買い物に行ったときに財前が(あ、これ欲しいな)って言った、赤い石がついとるピアス。



「え…俺、なんもあげれるもんないですよ」
「そんなんいらへんよ。俺がお前にやりたかっただけやし」
「謙也さん、」


「なぁ財前。俺、今まで自分の気持ち優先させたことなんてなかった。いつも宙ぶらりんで、自分の意志は後回しで、へらへら笑って相手に合わせてさ。ずっと、逃げとったんや。せやけど、今回は絶対我慢したくないって思った。ちゃんと伝えたいって思った。」
「…」
「男同士で気持ち悪いって思うかもしれへん。困らせるかもしれへん。せやけど、俺は財前のことが好きや。大好きや。」



自分の気持ちを音にして、もうこれで悔いはないなって思った。好きなやつを困らせる、自己中な行動やったかもしれへんけど、それでも伝えれて、よかった…



「…嘘みたいや」
「すまん。悪いけど嘘ちゃうねん」
「俺もです」
「へ?」




「謙也さん、大好き」
(謙也さん、大好き)






財前が声にした言葉と、頭の中に流れ込んできた財前の言葉が重なった。こんな経験今まで一度だってあっただろうか。財前の目が涙でいっぱいになってゆらゆら揺れている。目は口ほどにものを言う、とは聞いたことがあるが、目も、口も、心まで使って伝えてくれたこの気持ちはきっと本物なんや。


「財前、ありがとう。本間にありがとう」
「謙也さん、」
「好きや。お前のことめちゃくちゃ好きや」
「俺も、俺も好きです」
「ありがとう。財前。俺のこと、変えてくれてありがとう。」










光は結局、俺のことがずっとずっと好きやったらしい。それでも光の(謙也さんのことが好きや)と言った心の声が聞こえたのはあの一回限りで、それからは一度も聞こえてこない。しかも確認してみたところ、光が欲しがっていたピアスは赤い石のものではなく、それの横にあった色違いの青い方やったらしい。他の人の心の言葉も、最近聞こえるときと聞こえない時が半々になってきた。どうやら、俺の能力は少しずつ弱まってきているみたいや。



「光、おはよ」
「謙也さん。おはようございます」



俺は、本間に光のこと好きになったおかげで、人間らしく生きられるようになったんちゃうかなって、そのおかげで特殊なこの力が弱まってきたんちゃうかなって思う。そのうち誰の心も読めなくなるんやないかなってなんとなく感じた



「…なぁ光。もしも俺が人の心が読めるんやって言ったらどうする?」
「そんなん知ってます」
「え?!」
「あんた、人のこと気にかけてばっかやないですか。相手が喜ぶようにいっぱいいっぱい考えて生きてきたから、人の考えてることが理解できるんやないですか?」
「あ、そうゆう意味か…」
「本間にアホやと思います。でもそんなアホほどお人よしなとこ、俺は好きです」
「光…」
「ちなみに俺も、あんたの考えてることならまるわかりです。俺のこと大事にして大事にして、甘やかしたいんでしょ。」
「…」
「なんや、違うんすか」
「いや、大正解や!お前すごいなぁ!」



今年のクリスマス、サンタさんなんて信じる年でもないけど、俺は人間らしさと好きな人、両方手に入れることが出来た。このまま誰の心も読めなくなったら、それはそれで生きづらくなるのかもしれない。やって、今までずっと聞こえ続けてきた言葉が聞こえなくなるんやから。


でも、光の放つ言葉だけは信じ続けようと思う。たとえばそれが嘘でも、信じて、信じて、信じ続けていきたいと思う。そんな風に俺は、愛情を知っていくんや。


(光、めっちゃ愛してる。)


「ん?謙也さん今なんか言うた?」
「え?別に何も言うてへんよ?」
「そっか。空耳やろか。」



俺が持ってる限りの愛情を、今日も明日も明後日も、光に伝えていこう。俺自身の生み出す、ことばで。




Merry Christmas…☆





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