当たり前に愛されること、(拍)





養護施設パロです。児童虐待等の表現がありますので苦手な方はご注意ください。年齢設定はとくにないけど小学生くらいのがしっくりくるかもです。













だるい。しんどい。他の人と関わりたくない。


俺は今日から養護施設の世話になることになった。理由は両親のネグレクト、いわゆる育児放棄。自分でも引くくらい体はガリガリに痩せている。


大人は全員悪い奴だ。そんなこと言うつもりはない。優しくて親切な人たちもたくさんいるだろう。でもずっと自分の周りにはいなかった。友達とは良いものだ。それも分かる。分かるけど分からない。最近はろくに学校も行けていなかったから友達なんていないから。


ただ一番嫌なのは、こんなふうに自分の親を憎んでしまう自分だった。養護施設に保護されて、これからは食事も与えられる。なのにしんどいとか、人と話をしたくないと考えてしまう自分がひどく悪い奴のように思えた。










「今日からみんなの仲間になります、財前光くんです!みんな仲良くするんやで!」
「「はーい!」」
「…よろしくお願いします」



施設にはたくさんの子供がいた。新入りの俺は質問攻め。何歳?何年生?どこから来たの?キラキラとした目に思わず顔をそらしたくなる。ここしばらくの間に他人と会話をすることが以前以上に苦手になってしまった。食事もあまり採れていない間に胃が小さくなってしまったのか他の子供達より食べられない。


家族のような子供達。まるで両親のように接してくれる先生。暖かい雰囲気。全て素敵だとは思ったけど、全て自分には合っていないのではないかと思ってしまう。やって、そんな和やかなこの空間に俺は恐怖を覚えたのだ。俺はこれからここで上手く生きられるのか、と。



一瞬の隙を見て俺は中庭に出た。星がちらほら見える。ここは自分が前にすんでいたところより空が遠くにあるように感じた。いや、やはり勘違いかもしれない。空を見上げたのなんていつぶりだろうか。


「なぁ!自分、光やろ?」



いきなり声をかけられてびくっとした。振り向けばニカッと明るい笑顔の少年が駆け寄ってきた。



「今日入ってきたんやろ!俺は謙也!よろしくな!」
「よろしく…」
「光細いなぁ!これからは一緒にたくさん食べてでっかくならなあかんで!」



自分とは正反対の人間だ。そう感じた。明るくて人を集めるような、典型的な良い子。もし自分もこんなふうだったら、お母さんは俺を捨てなかったかな。今も一緒にいてくれたかな。



たまたまハーフパンツを穿いた少年の足に目がいった。…俺は目を疑った。



ものすごい、火傷の跡。








「ん?光どうしたん?」
「いや、別に…」
「あぁ、俺の足?」
「………」
「すごいやろ、俺の足」
「………」
「筋肉ムキムキやろ!鍛えとるからな!めっちゃ速く走れるんやで!」



こんなに酷い火傷の跡を見たのは初めてやった。きっと、児童虐待。この少年だってきっと、明るい笑顔を見せるまでに何度も何度も泣いたのだろう。それでも今は、人に幸せを運ぶような、本当に良い笑顔をしている。俺は自分の顔が泣きそうに歪んでいるのがわかった。



少年は俺を見て、めちゃくちゃ優しく笑って俺の頭を撫でた。




「光。これからは、俺らが家族やからな。」
「………」
「今までのことは知らへんけど、これからは俺がお前のこと守ったる。何も心配いらん。」









ずっとずっと我慢していた。自分は愛情が貰えない人間なんだと決め付けて、世界の片隅で縮こまって震えていた。そんな俺を彼は、守ってくれると言った。暖かく真っすぐな瞳が、真実を伝えていると物語っていた。


気が付くと俺は彼に、謙也くんに思いっきり抱き着いてわんわん泣いていた。他人の前で泣くのはこれが初めてやった。


…いや、他人ちゃう。家族や。この人、俺の家族なんや。














「光、おはよう!」
「…おはよございます」
「今日から光も学校行くんやで!」
「はい」
「大丈夫や、俺も一緒やから!学校めっちゃ楽しいで!」



俺の手をぎゅっと握ってくれる。これをしてくれたのもこの人が初めて。



これからは謙也くんが俺の手を引いてくれる。やから、世界の真ん中を歩くのだって怖くない。


そのかわり、俺もこの人を愛そうと思った。少しずつでいいから、信じてゆく。謙也くんが泣きたいときは、俺が傍にいたい。


謙也くんがニカッと笑って「光、初めて笑ってくれた」と言った。この人の笑顔はきっと、幸せのカケラ。いっぱい集めたら、めちゃくちゃ幸せになれそうや。


謙也くんのあったかい手を、強く握り返した。





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