小さな背中に未来を乗せて(拍)





それなりに良い大学に入って、それなりの量の課題をこなす日々。バイトをしたりサークルに参加したりと忙しいながらも楽しい日々を過ごす大学一年生の俺。


そして、恋人である光は、高校三年生。受験生やった。










光の第一志望は県内の有名な大学。いくら光が賢いからと言っても合格する確率は五分五分と言ったところ。第二志望は少しレベルを落とした、ここから遠く離れたところにある大学やった。


光に「受験が終わるまで会わないでほしい」と言われたのは、ほんの少し前のこと。せやけどもう随分と長いことたった気もするなぁ。





「受験終わるまで、会うのやめてほしいんすわ」
「………へ、」
「勉強に集中したいから」
「え、…おれ、」
「別に謙也さんが俺の邪魔しとるわけちゃいます」
「せやったら、」
「俺、ホンマに勉強したいこと出来たんすわ」
「なん?英語?」
「や、心理学」
「…すげー……」
「すごくないです」
「いや、やりたいことちゃんときまっとるのは立派なことやで」
「………せやから、やっと自分で決めた、将来にかかわる大切なことやのに、ホンマに勉強したいことなはずやのに…」
「光?」
「もし失敗したら行きたい大学に行けへんよりも、謙也さんと遠恋になってまう方が嫌やなぁって考えてしまうんすわ。」
「………!」
「自分の為にやっとるのに、そんなこと思っとる自分が、阿保で、重たくて、嫌なんです」
「ひか…」
「せやから、ホンマのホンマに頑張るから、ちゃんとするから…ちょっとだけ待っとってください」
「…頑張ってな光。ホンマに応援しとるから。光なら大丈夫やから…!」
「謙也さん、ありがと」






こんなやりとりのあと、俺達はホンマに会わんかった。メールは毎日しとるけど。光が俺の傍にいたいって思っとってくれたことも嬉しいし、頑張ってるのも嬉しい。光、負けるな。頑張れ、頑張れ。














センター入試を目前に控えたある日。俺の方も大学の試験が近付いていて、家でレポート作っとった。そしたら急にけたたましくなる携帯。この着信音は……光や!





「もしもし!!」
「ども」
「久しぶりやな!調子どや?」
「ぼちぼちっすわ」
「風邪とかひいとらんか?飯ちゃんと食っとる?
「大丈夫ですってば」
「………声、元気ないなぁ」
「っ、………」
「光、ホンマに元気?」
「…………」
「大丈夫なん?光?」
「…………」
「…そら辛いよなぁ。いつも頑張っとんのやもんな。ホンマに偉いと思「けんや、さん」
「どうした?」








「大丈夫やないって言うたら、会いにきてくれますか」











俺は堪らなくなって「すぐ行くから待っとれ!」とコート引っつかんで玄関のドア外れるんちゃうかっちゅー勢いで開けて外飛び出した。そのまま光ん家まで猛ダッシュで…とか思っとったら、うちの前に誰かおる。


「光!!」





それは、赤い目をした、世界一大切、な。






「あは、会いにきて言うたんに……来てしもたわ」







光の目からぽろりと涙がこぼれ落ち、手からはコンビニの袋が落ちた。その時には既に俺は光を強く抱きしめとった。





「謙也さん、袋落ちた。あんまんと、ぴざまん。」
「うん」
「謙也さんの好きなセブンのやつやで」
「うん」
「………謙也さん、」
「うん」
「やっぱり、怖いよ」
「せやな」
「受験もやけど、やっぱり、離れ離れがいっちゃん怖いねん」
「俺も怖いよ」
「なんやねん、弱虫」
「弱虫でええねん。大事な光が、大事な試験受けるの、怖いに決まっとる」
「…………」
「せやから光も怖いまんまでええねんで。ひとりやないから。俺がおるから。絶対、頑張れるから」
「……けんや、さん」
「うん」
「俺、怖いよぉぉ…」



光は顔くしゃって歪めて泣いた。俺は光を尚更強く抱きしめて、上を向いて涙がこぼれるのを堪えた。




頑張れなんて、聞き飽きてると思う。頑張れなんて、もしかしたら光を追い詰める言葉かもしれん。せやけど俺は言うよ。そのかわりに「よう頑張っとるから大丈夫やで」とも言ってやる。それと、もし万が一光がここを離れることになったとしてもきっと大丈夫。どの道へ行くことになっても夢は目指せるから。幸せは掴めるから。どんな道でも俺が一緒に歩いてやるから。光、頑張れ、頑張れ、頑張れ。



今年の冬は寒いらしい。それでも日差しはほのかにあたたかい。それに、春は必ずやってくるから。






「光!これ、お守り買うてきた!!合格祈願!!」
「俺も謙也さんにお守り買いました」
「え、なんで?」
「家内安全っすわ」
「なんでやねん!!」





光、頑張れ。
精一杯のエールと優しい口づけを、君に贈るよ。





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