いかないで、ひかりはここにある。(千蔵+謙光)





※千歳が両目とも不自由になってしまう話。全体的に痛々しいですいたたたた!
あんま気持ちのよい話ではないのでご注意















千歳先輩が交通事故にあってから早2週間。夜にふらふらっと散歩しとったら飲酒運転の車が突っ込んできたらしい。持ち前の運動神経でかわしたおかげか怪我はそこまで酷くない。失ったものは大きすぎたのだが。
………左目の視力。


千歳先輩は、光を、失ったのだ。







恋人である白石部長はそれ以来学校、部活にすら来ていない。そんな部長と、今日の部活後に待ち合わせしとる。部室で一人で部長を待っとると、げっそりと痩せこけた彼が部室に入ってきた。


「財前、久しぶりやな」
「っす」
「さっきも自主練しとったやろ。感心やな」
「見とったなら声掛けてくださいよ」



部長との出会いは去年の4月。入部当初めちゃくちゃ綺麗な顔した男やなって思っとったら「自分、きっれーな顔しとるなぁ」言われて思わず笑ってしまった。


部長はいつだって優しかった。時々厳しい一面も見せたけど、それでも優しかった。俺が先輩たちから嫌がらせにあったとき、部長はそいつらをめちゃくちゃに叱りつけて処分した。(嫌がらせは本当に初歩的なもので、俺は腹を立てるまでもなく終わった。逆にその先輩らが不憫なくらいや。)
プライベートでも遊ぶようになって、俺達はどんどん親しくなっていった。


俺が謙也さんを好きや、ということも部長にはすぐに気づかれてしまい、彼は俺の背中を押してくれた。それがどれ程俺に勇気を与えてくれたか。やから部長が千歳先輩のことを好きやと打ち明けてくれたときは本当に嬉しくて、俺はどんなときでも部長の味方になってあげよう、と思った。





「今日、どうしたんですか」
「あぁ、部活。引き継ぎしとこうと思ってな」
「はぁ…」


俺が次期部長やってことはオサムちゃんからも聞かされとったし、さほど驚くような発表でもない。やけど、ちょっと早くないか?しかもなにも、こんなタイミングで。



「財前、引き受けてくれるよな?」
「はい。…頑張ります」
「うん、頼もしいな」
「…せやけど、ちょぉ早くないですか?」
「や、もうこれからは財前に部活任せるから」
「なんでこんな時期に…」
「俺な、もう死ぬんや」
「は?」
「千歳と一緒に死ぬの」



この人は今、何を言った?常にピンとした背筋で前を見据え、俺を励ましてくれたこの人は、今なんて…。



「何…言うてんすか…」
「千歳に言われたんや。『白石、俺を殺して』って。千歳がおらん世界で俺は生きられへんから、俺も死ぬの」
「冗談ですよね?」
「財前は分かってくれるよな?」
「…そんなん、わからんよ……」



白石部長の目は本気やった。今ここで部室から帰したらホンマに千歳先輩を殺して自分も死んでしまう。


「いや、だめです!!部長、絶対にダメ!!」
「千歳が辛いのはあかんねん。幸せなまんまで死なせてやるの」
「そう言って千歳先輩の人生終わらせて後悔するんはあんたやで!?」
「光もテニスも無い、俺さえ見えない世界は、千歳を傷付けるだけや」
「傷だらけでも、生きていかなあかん!!」



千歳先輩ももちろんやけど、俺は部長が大好きや。部長はいつも笑って俺を助けてくれた。大丈夫やでって言ってくれた。俺はそれに、すごく救われたんや。



「ふぇ、ぶちょ…あかんよ…そんなん、あかん…」



涙がとまらない。部長の指を緩く握ることしか出来ない俺。そんなとき、誰かが部室のドアを壊す勢いでぶち開けて入ってきて、白石部長をぶん殴った。


「けんや、さん……」
「阿保白石…お前、正気か…!!」



先に帰ってええよって言ったのに。いつだって俺のこと、助けてくれるんですね。



「お前が千歳のこと救ってやらんくてどうすんねん。千歳のこと見殺しにする気か…」
「……やって、そうするしか…」



「白石。もし光の目が見えなくなったら、俺は光の目になるよ。ずっと俺が手ぇ引っ張って助けてやるんや。将来何不自由なく生きられるように、俺が側におるんや。」



白石部長の動きがとまった。俺の目から溢れる涙はとまらへん。謙也さんは白石部長をぎゅっと抱きしめた。



「一人で抱え込むな。俺達がおる。ふたりぼっちより大勢のがええやろ。俺、お前の親友ちゃうんか。」



白石部長はそのまま泣き崩れた。



「やって、ひどいわ、千歳ばっか…ぅ、光、謙也…ごめん、ごめんな……ふぇ……っ、」
「ぶちょ…」
「謝らんくてええよ。大丈夫やから、死ぬことだけはやめや」
「うぇ、っ」
「白石、お前が千歳の目になってやればええねん」
















後日。
謙也さんと一緒に千歳先輩の入院しとる病院へお見舞いへ行った。


千歳先輩はまだ目に包帯は巻かれていたけど「謙也、光くん、ありがとうね」てふにゃりと笑った。横では白石部長がホンマにしあわせそうな顔して千歳先輩にべったりやった。


「千歳、林檎食べる?」
「うん。白石、うさちゃんにしてね」
「はいはい」
「ふふ、ありがとぉ白石。すき」
「…あーほ」



帰り道。俺と謙也さんはあの二人に触発されてか分からないがいつもよりぴっとりくっついて歩いた。



「謙也さん」
「んー?」
「光の目になる、てやつ、嬉しかったです」
「あーうん…」
「ふふ、照れとるし」




人は一人では生きられない。とゆうより、それは生物すべてに該当すると思う。右、左、右、左って、一緒に歩いてくれる誰かが必要なんや。崩れそうになったら支えあって、落ちそうになったら引き合って。


いつか謙也さんが歳をとって、どこかが不自由になったら俺が世話してやろう。やから、遠い未来まで俺を連れていってね、謙也さん。





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