8cmのピンヒール(謙にょた光/拍)





・光と白石がにょた
・大学生くらい









表情筋が痛い。あと、足が痛い。


今日は彼氏がおらんうちのために、とか言って友達にひっぱられて合コンにやってきた。今はその帰り道。慣れないことって本当にするもんじゃない。疲労感が半端ない。それに加えてうちが今日穿いてるのはピンヒールやった。今日うちが合コン行くって聞いたくらちゃんが無理矢理貸してきたもんで、足に合わへんから痛い痛い。


別に、恋がしたくないわけやないけど、無理矢理彼氏を作ろうとは思わない。自分が本当に好きになった人と付き合ったほうが幸せに決まってる。


あー本間疲れた。するとちょっとだけぼーっとしとるうちに、誰かぶつかった。


「痛、」
「わぁあ!すんません!大丈夫ですか?怪我とかしてへんですか?!」
「はい……あ、」


よろけて転んだうちにぶつかった本人、金髪の兄ちゃんが手を差し延べてきた。恐そうな外見とは裏腹に慌てとるとがなんや可愛い。

でもここでひとつアクシデントが。うちは大丈夫やけど、ヒールが壊れてしまった。ポッキリ折れとる。くらちゃんのやのに、どうしよう…!


「わ、靴壊れてしもてるやん!本間すんません!ちょ、すぐ直すから時間ええかな?」
「え、あ、直すって…」
「俺、この通り右行ったとこの靴屋で働いとんねん!せやから心配いらんで!あ、歩ける?おぶろうか?」
「や!いいです!!」
「でも靴壊れてもうたしなぁ……そうや、俺の靴履いて!おろしたばっかやから汚くないで!」
「あ、あの…」
「ほないこ!」


うちに大きな靴を履かせて、自分は靴下も脱いで裸足でぺたぺた歩く。靴屋に行くちょっとの間にも彼の表情はころころ変わって。素敵な人やなぁって素直に思った。







「直ったで!」
「わぁ…ありがとうございます!あの、お金、」
「そんなんええって!ぶつかったの俺やし!」


むしろ払わなあかんくらいやわーって可愛い笑顔で笑う彼は、謙也さんと言うらしい。靴を器用に直しとる間も謙也さんはいろんな話をしてくれて、人見知りなうちもたくさん話せた。



「一回壊してもうたし、これ、この靴の友達にあげて!」
「え、そんな…」

謙也さんはくらちゃんの靴壊してもうたの気にして、もう一足綺麗なピンヒールをプレゼントしてくれた。

「ありがとう謙也さん。友達、きっと喜びます」
「こんなんちょっとした詫びやって!…あ、あとこれ、光ちゃんの分、な」



謙也さんはもうひとつ、あまりヒールの高くないミュールを差し出した。白いミュールにピンク系の綺麗な飾りが付いていて、すごくすごく可愛い。


「こ、こんなん受けとれへんです!」
「ええねん!俺が光ちゃんにあげたいんやから!」
「でもうち貰ってばっかで、ぶつかったんやってうちの不注意でもあるのに…」
「気にいらへんかったら返してくれてええよ、」


気にいらへん訳、ない。
ありがとうございます、ってお礼を言ったら謙也さんは遠慮勝ちにうちの頭をくしゃりと撫でて。

「今度お詫びに、ご飯奢るから行こ?」だなんて。
お詫びはもう貰ったよ、謙也さん。それでも頷いてしまううち。








「ただいま…」
「光ーくらちゃん来とるわよー」
「光!どうやった?誰かかっこいい子おった?」
「あー…合コンはもう行かへん」
「えー?!なんでよー!」


くらちゃん、説明は後でする。今は、彼の笑顔が頭にこびりついて離れへんねん。


「…くらちゃん、うち、始まっちゃった」
「は?何が?」


あぁ、恋ってなんて突然。謙也さんがくれたのはまるでガラスの靴。うちはシンデレラみたいなへませぇへん!ガラスの靴で駆け出してやる。


そう、これはきっと、8センチのピンヒールで走る恋。そんな、恋。





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