仕方なくない愛情。(光誕)





「仕方ない。」
成長していくにつれて増えていくこの言葉。みんな上手く「仕方ない」を使いながら世の中を自分の都合の良いように生きていく。忙しかったから仕方ない。時間がないから仕方ない。…男同士やから、恋が実らなくても仕方ない。


せやけど、謙也さんは違った。仕方ない、なんてのを理由に嫌なことをうやむやにするなんてしなかった。俺が不可能やと思うことをいつも可能にしてくれた。
それなのに、俺がすることは「しゃーないなぁ、光は」言うて、なんやって許して受け止めてくれるんや。











ピピッ
「…38度6分。完璧に風邪ですね」
「いや全然大丈夫やし」
「明らかに大丈夫やないやろ」
「げほっ、げほ、」
「ほら、言わんこっちゃない」



俺たちは一緒に時を重ね、一緒に大人になった。社会人になった今、俺たちは一緒に住んどる。結婚が出来ない俺たちにとっては同棲するってことはいわゆる…結、婚で。俺がいつか手放すことになっても仕方ないと思ってたこの恋は、永遠の愛に変わった。



一緒に迎える誕生日も、片手じゃ数え切れん。もう誕生日プレゼントなんて要らんかった。謙也さん、あんたが隣にいてくれたら。


今日は俺の誕生日。ここんところ病院に篭りっきりやった謙也さんは、俺の誕生日に本間に無理矢理休み合わせて家に帰ってきた。そんで、ぶっ倒れた。医者が風邪ひくとかどないやねん。


謙也さんはベットに横になって真っ赤な顔に汗垂らしながらぜぇぜぇ言っとる。謙也さん、頑張りすぎやねん。まぁそんなとこが好きなんやけど。


謙也さんの汗で少ししっとりした髪を撫でると、「どないしよう、今日光の誕生日やのに」と、熱い息と一緒に零した。


「そんなんしゃーないやないですか」
「いや、しゃーなくないやろ。自分の一番大事なこの生まれた日やで」


それって一年で一番大切な日ちゃうん、て謙也さんは虚ろな目で言う。



今日は、一年で一番大切な日なんかやないよ。俺からしてみたら付き合えた日のが大切やし、初めてキスした日のが大切やし、いっこになれた日のが大切やし。3月17日の方が、ずっとずっと大切やし。



「謙也さん、今年の誕生日プレゼントは謙也さんがはよ元気になってくれるっちゅーのがええです」
「はぁ、なんなんそれ…」
「せやから早く元気なってください。そんで、やらしいこといっぱいしてください」


「それじゃあどっちのプレゼントか分からんなぁ」て力無くふにゃりと笑った謙也さんは、すぐに眠りに落ちてった。




謙也さんの汗を少し拭いて、冷えピタを新しいのに変える。まつげ長いなぁ。ホンマ、なんでこんなに好きなんやろ。誕生日プレゼントなんて要らない。ただ、キスくらいはしたかったなぁ、なんて。
寝とっても苦しそうにハァハァ言うとるのに俺がほっぺをなでると少し笑うこの人が、どうしようもなく愛しくて。



俺がこの人から欲しがるのは、いつもカタチの無いものやった。いつまでも一緒にいてほしいとか、ずっと好きでいてほしいとか、早く元気になってほしいとか。それじゃあこの人を困らせるから、今年は謙也さんの風邪が治ったらカタチのあるものをお願いしようと思う。


なぁ謙也さん。一生提出出来へんけど、今年の俺の誕生日には、婚姻届けを一緒に書きたいです。市役所に男二人で婚姻届け取りに行くとか、なんや笑えるなぁ。それで、何年か前の俺の誕生日に謙也さんがくれたペアリングで指輪の交換ごっこしてみたり、ね。可笑しいでしょ?でもね、多分俺は泣いてしまいます。



俺たちの気持ちは、仕方なくなんかない。こんなにお互いが求め合っとるんやから、仕方ないで片付けていいわけがない。ただ、俺が謙也さんを好きすぎるのは仕方ないかな、なんて!




「ホンマは光と一緒に住み始めたときに貰い行ってん。いつ書いてもらおかな、重くないかな、ってずっと迷っとったけど、やっぱり光に書いてほしいな」言うて、謙也さんの書斎から出て来た婚姻届けのせいで俺が謙也さんの胸で大泣きしてまうのは、もうすこし先の話。





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