embrace/後(謙にょた光)





ねぇ、本当はね。大事にされたかったの。愛されたかったの。ずっとずっと、愛を探してたんだと思うの。ほんとだよ。











あれから、頭冷やして考えた。謙也さんはちゃんとうちと向き合うてくれてたんや。元カレの言葉に振り回されて、謙也さんにも遊ばれて捨てられたらどないしようってすごく怖くなったけど、それは違う。こんな面倒なうちにいつも変わらない優しさをくれた。


どうして気付かなかったんだろう。謙也さんはずっとうちのこと大事に大事に、そっと想ってくれてたんだ。ずっと、ずっと。うちはその優しさに甘えて。
次はうちが頑張る番やないの?うちが、変わるべきやないの?









朝っぱらから3年2組に行ったけど謙也さんはおらんかった。白石部長が「多分屋上ちゃうかな」言うてくれたからそこに行くことにした。


「じゃあ部長、ありがとうございました」
「光、」
「はい?」
「頑張ってな」
「…部長、おおきに」



少し錆びている屋上へと続く階段を一歩ずつ踏み締めて上る。頭にいくつも浮かぶのは、謙也さんの笑顔。謙也さんはいつだってうちに笑顔をくれた。

重たい屋上の扉を力を込めて開けた。
目に飛び込んできたのは、青空に溶け込む金色。



「謙也さん」
「っ!!…ひかる、」
「仮にも受験生が授業サボっちゃあかんでしょ」
「……せやな」


屋上の隅っこに謙也さんは座っとった。いつものキラキラとした目は伏せられて、それでも困ったように笑ってくれる。どんなに悲しくたって、笑ってくれる。
ぽつり、謙也さんは話し出した。



「光、本間ごめんな」
「………」
「俺、本間に光笑わせてやりたかっただけやのに、あんなことして……ホンマ最低や」
「…………本間、最低ですわ。謙也さん」
「…っ、」
「やって、」



謙也さんの顔がくしゃりと歪む。最低なのはうちの方やね。こんなに好きでおってくれたのにね。やから、今日でこんな面倒なのはおしまいにしましょうね。今度はうちが謙也さんに笑顔をあげる番ですから。












「やって、普通好きな子にキスするのは、好きやでーとか愛してるとか、言ったあとやろ?」



「は、」
「謙也さん、うち謙也さんが好きです。もう誰も好きになんかなりたくないって思うとったけど、謙也さんのこと好きになってもうたんです」
「ひかるっ…!!」



謙也さんにがばっと抱きしめられる。心臓は速く動いて頬は熱くなった。胸に広がるのはどうしようもなく幸せな気持ち。よかった。この人で、よかった。



「……ひかるぅ、テイク2って有り?」
「しゃーないなぁ、今度はちゃんとやってくださいよ」
「よっしゃ!!」



これからどんなに辛いことがあっても、この人を疑うことだけは絶対しない。ひたすらに信じてあげるのも、愛でしょ?


「光、愛してんで」


言うとくけど、それに応え続けるのも愛ですからね。何卒よろしくお願いしますよ、謙也さん。

触れたくちびるはうちの心をものすごくあたたかくしたので、謙也さんを好きになった理由はそれだけで十分だなぁと思えた。





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