「あーあ失恋かあ」 今日はどうやら不運な日のようだ。 日直の仕事である日誌を書きながら窓の外を見ていたところ、片思いの相手を見つけた。表情は見えないがあの赤茶の外ハネ野郎は菊丸に違いない。そこにはもう一人、学年一の美少女もいて、顔を赤く染めながら何かを伝えていた。きっと告白だろう。菊丸がポリポリと照れたように頭を掻いたのが見えた。 こう言っては失礼だけれど、菊丸のことを好きなのは私くらいだろうと考えていた。菊丸とは中学1年生の時からずっと同じクラスで腐れ縁だ。ずっと好きだったから「私以上に菊丸を好きな子はいないだろう!」と変な自信があったのだと思う。長く好きでいたところで偉くもなんにもないのに。冷静に考えてみれば全国大会への出場が決定し、ファンクラブまで設立されているテニス部員がモテないわけがない。 ライバルがいただけでもショックなのに、よりにもよってあの子がライバルだなんて。菊丸が「彼女にするならあんな子がいいな〜。すっげえタイプ」と言っていた子だ。地味な私とキラキラのあの子。どっちを選ぶかは明白である。どっちにしろ伝える勇気がない時点で私はあの子に勝てっこないのだ。 先に伝えていれば何か変わったんだろうか、伝える勇気がなかった時点で諦めていたら傷つかなかったのだろうか。そんなたらればが頭の中をぐるぐる。おかげ様で日誌は白紙のままだ。 再び窓の外を見ると、いつのまにか二人はいなくなっていた。 「あれー?名字まだ日誌書き終わってないの?遅くない?」 「…菊丸…。びっくりした、部活は?」 「ちょっと忘れ物しちゃってさ」 なんで忘れ物なんてするんだ。 という言葉は飲み込んだ。失恋が確定したばかりのこの状況で、片思いの相手が登場なんて酷すぎる。きっと今日の星座占いは12位だ。 「聞いてよ。さっき、告白された」 「…知ってる、見えてたもん」 「えー!覗き見してたのー?」 「………おめでとう」 「へ?」 「付き合うならって言ってた子と付き合えてよかったじゃん。…だからおめでとう」 「…はー、…なーに泣いてんのさ」 菊丸にそう言われて、自分が泣いていることに気がつく。おかしいなあ、泣くつもりなんてなかったのに。ちゃんとお祝いするつもりだったのに。やっぱり私は菊丸が好きなんだ。あの子に勝てっこないと思うけれど、菊丸が誰かと付き合うなんて嫌で仕方がないんだと改めて気づく。涙は止まりそうにない。菊丸にポンポンと頭を撫でられてより涙は溢れた。 「…うぅ……」 「泣くなってば〜。本当、名字って可愛くないんだから。あの子と大違いだよん」 「……っ…」 「素直じゃないし、変なところで意地っ張りなくせに泣き虫だし、可愛げないし、…本当俺のタイプじゃない」 「………ひどい」 「でもね、それでも俺が好きなのはあの子じゃなくて、名字なんだよん」 本当にばかだよ、きみは (だから勝手に勘違いして泣かないでよね) 170901 title:すいせい - - - - - - - - - - - - - - - - リハビリ |