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なにかあったのかな。

力強い彼の腕の中で、私はそう思った。今日の薫くんは甘えんぼさんだ。お昼過ぎに薫くんの家に来てから、ずっと私のことぎゅっとしてる。ぎゅっと抱きしめられることに慣れていないから少しびっくり。薫くんとは付き合い始めてそろそろ1年になるけど、恋人っぽいことなんてほとんどしたことない。
ぎゅっとされるのは片手で数え切れるくらいで、キスはしたことがないなあ。進展が遅いと友人によく言われるけれど、薫くんに大切にされていることを、同じ時を過ごす中で感じているから不満はない。だからこうやって抱きしめられるとタジタジになってしまう。薫くんはあまり弱さを見せない人だから、きっと何かあったんだろうなって心配になるんだよ。


「………フシュー…」
「…薫くん?」
「…わりぃ、もう少し」
「…うん」
「……俺に部長が務まるのかな。来年も優勝……できるのかな」


きっと部活で何か思うことがあったんだろう。手塚先輩たちが引退してから、薫くんがテニス部の部長になった。副部長になった桃くんから聞いたけど、相当悩んでいるらしい。「プレッシャーで押し潰されそうだよ、あいつも俺も。」って言ってた。全国大会優勝した青学の部長さんだもんね。来年も優勝しなければって思いでいっぱいいっぱいなんだろう。全国優勝へ導いた先輩たちも引退してしまって、優勝を決めた越前くんも海外に行ってしまったから弱気になってしまったのだと思う。


「そんなに気負わなくてもいいよ」
「…………」
「薫くんには、勝つためのテニスじゃなくて、薫くんが楽しいって思うテニスをしてほしい」


都大会から全国大会にかけて、青学の試合はほとんど見てきたけれど、みんながキラキラしていたのは、青学のみんながテニスを大好きで、楽しんでいたからだと思うんだ。青学の楽しそうなテニスをずっと見てきたから、比嘉中や立海大附属の試合は少し怖かった。勝ちたいって気持ちもとても大事だと思うけど、それ以上に楽しむテニスって大事だと思う。全国大会決勝で越前くんがそれを証明してくれたと思うけどね。


「部長として大切な思いだと思うけど、それで薫くんが潰れてしまうのは嫌だな」
「…………おう」
「偉そうにごめんなさい」
「いや……ありがとう。少し気持ちが軽くなった」


腕の中から薫くんを見上げれば、穏やかな顔へと変わっていた。さっきは不安な気持ちが顔に現れていたけど、少し晴れたみたい。


「少し気持ちが晴れたならよかった」
「おう。カッコ悪いところみせて悪かった」
「…そういうところも含めて全部好きだよ」



私がそう言うと、薫くんは小さくため息をついた後ボソッと何かを呟く。なんと言ったのかが聞き取れなくて、聞き返そうとしたけれど、それは叶わなかった。手をぎゅっと捕まれた後、唇には暖かい感触。あまりにも急な出来事だったから、キスされてるって認識するのに少し時間がかかったんだ。


「…はぁ………好き」
「……か、薫くん、今…」
「…お…俺!…外走ってくる」


バタンと扉が閉まると同時に、フローリングにへたり込む。私、キスされたんだ。ふわふわと幸せな気持ちになると同時に顔に熱が集まる。薫くんの好きって言葉久々に聞いたし、とてもかっこよかった。頬がゆるゆるになっているのが自分でもわかる。走ると言って出て行った薫くんの顔も真っ赤だった。きっと私の顔も薫くんのように真っ赤なんだろうなあ。今日はずいぶんと暑いね、熱いよ。私も少し走ってこようかな。




熱源は多分、君



15.0826
title:sappy
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甘いの書きたい!と思って書いたけど、薫ちゃんは難易度が高すぎました。





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