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「素直になってもいいと思うんだ。もう隠さなくてもいいんだよ」


別れよう。幸せになってよ。

放課後の教室でそう彼氏に振られた。付き合って何ヶ月だっけ。高校2年生になってすぐだったから、4ヶ月ほどだったかな。告白は彼の方からで、当時は正直に言うとちっとも好きじゃなかった。

高校1年生の時、ずっと好きだった幼馴染に彼女が出来た。付き合いたてほやほやの幼馴染は随分と幸せそうで、「ああもう私の恋は叶わないんだろう」と実感した。傷ついた心を隠すため、前を向きたい、新しい恋を見つけようと考え始めた時に、彼から告白された。まっすぐ想いを伝えてくれた彼がかっこいい人だなと感じたし、とても良い奴で一緒にいて楽しくて、彼となら良い恋愛が出来そうだと思ったから告白を受けて付き合うことになった。

小学5年生の時から、幼馴染のことが好きだった。5年の片思いになかなかピリオドを打つことは出来なくて、彼のことを好きになろう、好きになりたいと思っても、幼馴染が心から離れることはなかった。
彼との時間はとても心地よいもので、手をつないだりキスをしたりもしたけれど、嫌だなって思ったことは全くなかった。だから少なくとも彼に対して好意はあったと思う。恋愛としての好きではなかったけれど。幼なじみへの想いに勝ることはないことは、私自身気づいていたのにお付き合いを続けていたから、彼に対して罪悪感でいっぱいだった。



「菊丸が好きでしょう?」
「………」
「付き合う前から名前のこと見てたから知ってた。菊丸より俺のことを好きになってもらおうって思ってた」
「……うん」
「でも俺じゃあ無理だって気づいたんだ。菊丸のことずっと想ってたもんな、簡単に忘れられるもんじゃない」
「………ごめん、」
「謝んなって。こちらこそ付き合わせてごめんな。名前と過ごした時間楽しかった。好きになろうとしてくれてありがとう」
「…私も楽しかった」
「名前なら大丈夫、必ず幸せになるよ」



また明日、と手を振って帰る彼を見送った後、教室で少しだけ泣いた。しとしとと雨の降る音が聞こえる。どよーんとした空はまるで私の心を表しているようだ。
本当に良い人だと思った。彼が初めての彼氏で良かったと思った。好きでもないのに付き合って、結局他の人のことを好きだなんて私は本当に最低だ。彼のことを好きになれたらどれだけ幸せだったか。それでも私は英二が好きなんだ。叶わない恋をし続けるんだ。本当に馬鹿だなあ、私は。







「あれ?名前じゃん」



そう言って教室に入ってくるのは英二だった。なんて間の悪い。顔が見れなくて机に突っ伏した。

「彼氏と廊下ですれ違ったよ!」
「折りたたみ傘と宿題忘れちゃって」
「雨降ると憂鬱になるよねん」

などと言いながら、机の中をガサゴソ漁る音が聞こえる。その折りたたみ傘で彼女さんと一緒に帰るのかな、とか考えたらまた涙が溢れた。こんな複雑な気持ちの時に来ないでよ。なにも反応しなかったからか、「なにかあったの?」という不安そうな声が聞こえた。



「…名前泣いてるじゃん!どうしたの?…あいつに…彼氏になにかされた?」
「…なんでもない」
「なにかあったでしょ。俺でよければ聞くよ?」
「なんでもないってば!!…英二には関係ない!放っておいてよ!」

「関係あるよ!好きな子が泣いてるのに放っておけるわけないじゃん!」



その言葉に耳を疑った。驚いて突っ伏してた顔を上げると、いつもと違って真剣な顔をした英二がいた。ああ、これは本当のことを言ってる時の顔だ。嘘をついている顔ではないことはすぐにわかった。



「…なに言ってんの。英二、彼女いるじゃん」
「2週間前に別れた」
「は、なんで?あんなに幸せそうだったのに」



「名前が彼氏と楽しそうに笑ってるところ見てすっげえモヤモヤしたんだ」
「手をつないで帰ってるところと……キス、されてるところを見かけて、すごく心が傷ついたのがわかった」
「名前が男と一緒にいるところ見たくないって思い始めて。それから好きだってことに気づいた。あの子には正直に話して別れた」




名前のことが好きだよ。

彼氏いること知ってるのにこんなこと言っちゃってごめん。好きだから名前の泣いてる姿は見たくない。だから関係なくないの!



ぎゅっと私の手を掴みながら英二はそう言った。ああ、今日はいろんなことがありすぎて気持ちに整理がつかないや。ぐっちゃぐちゃ。ずっと望んでいた言葉がようやく英二の口から聞けたおかげで、また涙が止まらなくなりそうだよ。




「私も彼氏とは別れた…」
「…ん?ごめん聞き取れなかった」
「………ばーか」
「な!」
「英二のばーか。ばーかばーか」
「もう!人が真剣に告白したのに!ばかってなにさ!」
「随分と待っていたんだよ、伝えなかったことを後悔していたんだよ」
「え?」
「私もずっと好きだった」





君です、僕の心の住人は



15.0901
title:sappy
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5万打リクエストやっと消化です。
うめ様遅くなってしまい申し訳ないです。お好みの切甘かはわかりませんが、もらっていただけたら幸いです。
リクエストありがとうございました!




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