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「…ドイツで暮らそうと思っている」
「そっか…、プロになったんだもんね」




買い物の帰り道、手塚がぽつりと呟いた言葉に、私はそう驚かなかった。

手塚との付き合いは結構長いもので、なかなか会いに行けないようなところにいつの間にか飛んでいってしまうことは、これが初めての経験ではない。中学生の頃から九州に飛んだり、ドイツに飛んだり、彼は忙しい奴なのだ。それだけテニスが大好きで一生懸命なんだけれども。


慣れてしまったというか。
予測していたというか。
プロになったんだから、日本以外での活動が増えるんだし、いつか越前くんのように手塚も中学生の時から行っていた、ドイツで暮らす時が来るんだろうと思っていた。
まあ、帰り道の途中で言われるとは思ってなかったんだけどさ。




「しっかり働いて、試合たくさん観に行けるようにお金貯めておくよ。もしかしたらテレビで眺めるだけになっちゃうかもだけれど」
「いや、貯めなくていい」
「何よ、観てほしくないってこと?」





私がそう言うと、手塚は立ち止まる。
俯いて何かを考えているようだ。

付き合いが長いといっても、手塚がなにを考えているのかよくわからない。感情を表すことが少ないんだもの。日本にいる間は、一緒にたくさんの時間を過ごしてくれるけれど、本当に手塚は私のこと好きなのかな、とこっそり悩んでるんだから。


今も、何考えてるのか全然わからなくて…。本当に私たち恋人なのかなって。九州に行く時も、今回のドイツ移住のことも、本当いきなり言うんだから。




(…なにを泣いてるんだ私は)




「名字」
「…あれ、目にゴミ入っちゃったかな」
「一緒に来てくれないか」





これには流石に驚きが隠せなかった。
顔をあげた手塚の目は真剣な眼差しだった。手塚の左手にはいつの間にか小さな箱が乗っていて、その中には綺麗な指輪。

右手に持っていた買い物袋がばさりと大きな音を立てて地面へと落ちる。






「名字、お前といるだけで心が暖かく、幸せを感じるんだ」

「…テレビ越しではなく、いつもそばで俺の頑張りを見てもらえないか」

「今までたくさん寂しい思いをさせてしまっただろう、すまなかった。必ず幸せにする」





ああ、私は十分愛されているのだなあ。
手塚が、口を開く度に、私の両目からは大粒の涙がこぼれていく。全く止まる気配はなくて、顔が涙でびしょ濡れだ。







「結婚しよう、名前」








大切な人の酸素になる







「本当、ばかじゃないの、」
「ああ」
「いつもいきなりで、わがままで、何考えてるのかわかんないし、好きとか言ってくれないしさ、」
「ああ」






だけど断れるわけないじゃない。私だって手塚とずっと一緒にいたいんだから。

そう言って抱きついたら、手塚は嬉しそうに私の頭を撫でながら微笑んだんだ。





title:夕凪
13.0927
15.0721 ちょっと手直し
アメリカ→ドイツ
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手塚は愛してる好きなどの言葉を使って
気持ちを表現する人ではないんだろうという勝手な妄想。







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