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「名字さん、お疲れ様です!」
「壇くんもお疲れ様。今日は先輩たち張り切ってたから、もう随分と暗くなっちゃったね」
「こんな暗い中、女の子が一人で帰るのは危険ですし、今日は僕と一緒に帰りましょう。送って行くです!」





山吹中に入学し、入ってみたテニス部で一緒にマネージャーをやっていた壇くんとは、2年ほど前のこの時から一緒に帰る仲だ。

その頃から全国大会へも出場していた山吹は、全国で勝ち上がって行くため、遅くまで練習していた。毎日毎日遅くまで。もちろんマネージャーも選手たちをサポートするため遅くまで残っていた。その度に彼は女の子一人は危ないから、と部活がある日は方向が違うにもかかわらず、私を家まで送ってくれるのだ。その習慣は3年生になった今でも続いている。



その習慣も終わりがやってきた。



壇くんの中学生最後の全国大会が幕を閉めたのだ。結果はベスト4だった。準決勝で当たったのは青学。シングルス3は負け、ダブルス2も負けて後がなかったのに、シングルス2、ダブルス1が根性で勝ち繋げたシングルス1。壇くんの相手は越前リョーマくんだった。

壇くんはマネージャーから選手としてテニス部に所属するようになって、ずっと練習を積み重ねてきた。その努力が山吹をベスト4へ導いたと言っても、過言ではない。惜しくも勝てなかったが、越前くんとの試合はとてもいい試合であり、見守っていた私はいつの間にか涙を流していた。


試合が終わった後に、「みんな頑張ってくれてありがとう、みんなで僕まで繋げてくれてありがとう。僕、山吹の部長でよかった…!」と壇くんが涙し、みんなも涙しながら壇くんに抱きついたのはつい先ほどのことだ。






「部長、お疲れ様でした」
「そっか…、今日で部長も終わり…ですか…」




応援に駆けつけてくれた千石先輩や亜久津先輩、南先輩たちや部員とベスト4の打ち上げをした帰り道、私は夜空から壇くんに視線を移しそう言った。さみしそうな壇くんが目に映る。そりゃあ、さみしいよね。ずっと頑張ってきたテニス部を今日で引退なんだから。私だってマネージャー引退するのとってもさみしい。もっと後輩たちと仲良ししたいし、教えたいことだってたくさんあるんだ。





「壇くんと一緒に帰るのも、今日で最後か…」
「………」




でも私は、マネージャー引退よりもこちらの方が随分とさみしいものだった。入部してから今までずっと一緒に帰るのが習慣だったから、壇くんと一緒にいるのは私の中で当たり前になっていた。最初は男の子と一緒に帰る、なんて経験一度もなかったため、とても緊張していたが、今では一緒に帰るのが心地よくて、帰りたくないなあって思うくらい、壇くんと一緒にいることが好きなのだ。

方向逆なのに毎日送ってくれる彼。さりげなく車道側を歩いてくれる彼。私に気をつかってゆっくり歩いてくれる彼。笑顔がかわいい彼。習慣の中で私は随分と壇くんを好きになってしまっていたのだ。壇くんのお話もっと聞きたいな、壇くんをもっと知りたいな、あわよくば、これからも一緒にいたいって思うのはわがままなのだろうか。




「…実は、名字さんは知らなかったと思うんですけど、僕随分前から君のことが大好きなんです。これからも一緒に帰りたい、ずっと一緒にいたいって思うのは、やっぱりわがままかなあ…?」





驚いて彼を見ると、照れたように笑って頬をかいていた。なんだ、あなたも同じこと考えていたんだ。

そう思った途端、涙が頬を濡らしていく。




「………!!!ご、ごめんなさいです!!!まさか泣かせてしまうとは思ってなくて…僕のわがままで傷つけてしまってごめんなさい…」
「…ちがうんだ」
「え…?」
「私も、同じことを考えていたから、」





夜に魔法をかけるナミダ
(わがままなんかじゃないよ、)
(私も壇くんが好きです)





涙にぐしゃぐしゃになった、お世辞にも綺麗とは言えない顔で、そう彼に告げれば彼はとても嬉しそうに笑うのだった。



130214
title: M.I

はじめましての壇くん。





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