「ユウジが自分から女の子の話するなんて珍しいな〜」 昼休み。小春の素晴らしさについて語りに行った3年2組で、白石に微笑みながらそう言われた時から俺はおかしいんだと思った。 「は…?白石、何言うてるん?」 「さっきからユウジ、名字さんの話しかしとらんで?」 俺は女が苦手や。 だから俺が女の話をするなんて珍しいし、おかしいんや。しかも名字っちゅーのは最近隣の席になった女で、とろくさいし、いっつもおどおどしとって、女子の中でも特に苦手なタイプやねん。 「…いったー…。はうう……バラバラになってしもた…」 噂をすればっちゅうやつやろか。予鈴が鳴って、自分の教室に戻る最中、派手にコケて先生から持っていくように頼まれたであろう英語のワークぶちまけてる奴がおった。名字や…。最初は無視して教室戻ったろうかと思ったけど、泣きそうになりながら拾う姿見たら、いつのまにか一緒になって拾っとった。 「あ、ひ、一氏くん…」 「…お前、どんくさいなあ。ほら、はよ拾うて教室行くで?」 「あの、ありがとな…、一氏くん」 散らばった英語のワークたちをまとめて立ち上がる。あとは名字がやるやろ。さっさと教室戻ろうとしたが、後ろを振り返ると、しゃがみ込んだままの名字。ワークはもう拾い終わったのに、しゃがみ込んだまま。 「教室、行かへんの?」 「あー……っと…。先に行ってればええですよ…」 「なんやねん、気になるやんけ」 「転んだ拍子に足捻ったみたいで…」 「………立てないと?」 「…はうう……はい」 「っはー………」 思わず大きな溜め息が漏れる。ほんまにとろくさいっちゅーか、どんくさいっちゅーか。ドジやなあ。頭を掻きむしりながら、しゃがみ込んだままの名字を見つめると、おどおどと泣きそうになっていた。コイツのこう、すぐ泣きそうな雰囲気が苦手や。どうしていいかわからんくなる。 「痛いん?」 「…はい……」 「ほんまに立てへんの?」 「はうう…」 「はーっ…。泣くなや…。ちょっとここで待っとれ」 泣きべそをかく名字にそう言って、俺は英語のワークを持って一旦教室に戻った。もうそろそろ授業も始まってまうし、このワークなかったら先生も困るやろ。教卓の上にどさっと無造作に置いて、俺はまた教室を出た。廊下にはしゃがみ込んだままの名字がいた。 「ほら」 「え、」 「おんぶ。…保健室連れてったるから」 「えええ!でももうすぐ授業始まっちゃうし、私重いし…!」 「そんなん気にせんでええ。立てへんのやろ?はよ乗れ」 「せやけどっ…。はうう…」 「はよ乗れ」 「……はい…」 ぐずりながら俺の背中に乗った名字は、柔らかくて、コイツちゃんと食うとんのか、ってくらい軽かった。女の子…なんやなあ。 「ふふっ」 「何笑っとんねん」 「私誤解しとったなって思うて。一氏くんって優しいんやね。もっと怖い人かと思うてたわ」 ありがとう、といつものオドオドした声とちゃう優しい声で言われて、ドクドクと波打つ俺の鼓動が早くなる。なんで鼓動早うなっとんねん。ほんま俺最近おかしい。顔も熱いし、熱あるんやわ。名字連れてくついでに、俺もしばらく休もうと考えながら、3年2組の前を通りすぎた。 (ちょ、白石!廊下見てみぃ!) (なんや謙也…って……ほお) (ユウジあいつ女苦手ちゃうん?) (やっぱり…。ユウジにも春が来るんやなあ…!) title:sappy 111114 - - - - - - - - - - - - - - 初一氏くん夢! 最近ユウジくん好きすぎます。 エセ一氏くんとエセ大阪弁ですみません… |