「次の答えは"−48"」
「やりー!合ってたさ」
「マイナス?マイナスなんてどこから出てきたんですか?僕の辞書にはありませんよ!」
「そんな辞書捨てちまえ」
「神田くんは?合ってた?」
「0になった」
「ならないよ」
まるで地球の終わりにでも遭遇したかのような表情の神田くんは、ノートに目を落としながら肩も落とした。
繊細なロン毛の生徒に解き方を教えつつ、赤と白の口論の間に入ってたしなめる。
塾のバイトも大変だ。ただ座ってサルを眺めるだけの簡単なお仕事と聞いていたのに、話が違う。
「次は"+36"」
「ぎゃー!何でさ!何でマイナスじゃないんさ!」
「マイナス厨乙w」
「アレンてめぇ…!」
「神田くんは?合ってた?」
「0になった」
「ならないよ。君は0の使い魔か何かなの?」
「0になった!」
「ならないってば!」
三者三様の扱いにくさに頭を抱える。
英語は得意だけど、国語が壊滅的なアレン君。
歴史はズバ抜けているが、国語の小説を問題にする意味が分からない、つーか花子の心情なんか知るかとのたまうラビ君。
国語の意味が分かってない神田くん。
日本語で意思疎通すら取れない相手に数学の概念なんて教えられるのだろうかと不安になってた数時間前の自分大正解!スーパーひとし君1つに相当する素晴らしい観察力だ。
思った以上に思ったように進まない授業と自分の至らなさに溜息をついた。
時計を見ると既に授業終了15分前を指している。
「じゃああと15分で終わりなので、そのページが終わった人から帰っていいよ」
彼らのペースならば時間ぴったりに終わるであろう問題数に目を落としながら、報告書に目を落とした。
「先生」
「何?ラビ君」
「終わったさ」
「……早いね」
確かにすべて埋まっている解答欄と答えを急いで突き合わせる。
「全部…合ってる」
「当然さー。帰っていい?」
「…うん」
「先生!」
「どうしたの、アレン君」
「終わりました」
「うそ」
図られた。こいつら実はめちゃくちゃ数学できる癖に手を抜いてやっていたのか。
終了10分前に既に帰る準備万端で談笑している赤白コンビを恨めしい目つきで睨みつけた。
「先生」
「神田くん…まさか貴方まで…」
絶望的な気持ちで彼を見る。対する彼は不思議そうな表情で私を見つめた。
「全部0になった」
「ならないよ」
天才とバカはなんとやら
20130807
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