#
6
ああ、今日もいい天気。
この前のクラス替えで見事窓際の一番後ろという好条件優良物件の席にありついてからというもの、私が窓の外に目を向ける回数は格段に上がった。それもそのはず。この晴天麗しい陽気に外を見ないバカはただのバカである。白い雲が青い晴天に映える様子は、さながらどこかの絵画を彷彿とさせる。その美しい情景に満足して、前を向いて黒板近くにいるであろう先生に向けて手を挙げた。
「先生、青峰クンが大きすぎて黒板が見えません。頭削ぎ落としてもいいですか?」
窓の外はこんなに美しいというのに、何故私の視界前方は青峰しか映さない世界を作り上げたのだろうか。不愉快極まりない状況に舌打ちを1つかました。
「いいわけねぇだろ」
「だって、不愉快なんだもの」
「青峰、縮んでやれ。それか削ぎ落とせ」
「何言ってんだよ先生まで」
「先生も青峰クンの態度が大きすぎて参っちゃってんだよ」
「そうなんだよー」
「とっとと授業進めてください」
「何言ってんの、万年赤点野郎」
「お前も人のこと言えねぇだろ」
「青峰、清少は学年5位だぞ」
「ウソだろ…」
もっと使える奴に使える能力を与えろよ、と呟いたダイキの一言に先生はおろかクラスメイト達までもが頷いた。心外である。
授業に支障をきたすのは問題だろうという先生の粋な計らいで、見事私とダイキの席を取り換えることに成功した。最初は全力で嫌がっていたダイキだが、お前は前にいても寝てるかザリガニの絵を描いているかしかしないだろう、という先生の密告によってクラス中の生暖かい目に耐えられなくなった彼は、ついに承諾の姿勢を見せた。
ざまぁみろザリガニ野郎と心の中でほくそ笑んでいると、背後から私の椅子が蹴り上げられた。
「口に出てんぞ」
「しまった、私としたことが」
「満面の笑みで言うセリフじゃねぇぞ」
「いやぁ、目の前に障害物がないっていいですね先生!」
「うっせぇぞブス」
「やや、ついには意味もない悪態をつき始めましたか青峰クン。先生、やっぱり頭削ぎ落としてもいいですか?」
「先にお前の乳を削ぎ落としてやるよ。あ、削ぎ落とすところなかったか」
「清少も青峰も静かにしろよ。お前らは寝ててもいいんだぞー」
クラスのためだからなーと笑顔で広辞苑を握った先生は今までで一番いい笑顔をしていた。
「おい納言」
「なに?」
「音量下げろ。お前の声でけぇんだよ」
「お前も頭下げろ。お前の身長でけぇんだよ」
「今日さ、部活早めに終わるんだよ」
「へぇ」
「お前も一緒に帰るだろ?」
「帰らないよ何言ってんの?」
「テツも一緒だぞ」
「帰らないよ何言ってんの?!」
「本気でびっくりした顔すんなよ」
お前の彼氏だろ、と言われてもっとびっくりした。こいつにも男女の関係とやらの仕組みが分かる脳みそは備わっていたのか。
「全部口にでてんぞ」
「しまった、またやってしまった」
「棒読みすんな。つか、本当に一緒に帰らねぇの?」
「うーん、私はいいや」
少し困ったように言うと、それを察したのかダイキもそれ以上は深く聞いては来なかった。代わりに申し訳なさそうな顔で口を開く。
「もしかして、もう振られたのか?ドンマイ」
表情とは反対に喜々としたその声色に苛立ちを覚えて、机の中にあった広辞苑を青い頭めがけてかっ飛ばした。
心外な彼女6
20130703
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