甘やかし方が上手い君
「別れたんすか」
「そう」
「まじっすか、可哀想に」
「黄瀬」
「なんすか」
「顔がニヤついてるわよ」
「ああ、なんて正直で美しい俺の顔!」
「あんた何しに来たの」
勿論慰めに、なんて言い訳がましい嘘をつく男を横目でにらんでから目をつむった。嘘をつく男は嫌いだ。彼も、こいつも。
話があるなんて屋上に呼ばなくたって言いたいことは分かっていた。一か月前から遅くなったメールの返信と、急に余所余所しくなった彼の態度を見ていれば、潮時なんてバカでも分かる。彼の気が済むのなら、と別れ話に付き合ったのはせめて振られる理由くらいしりたかったから。…なのに。
「…?なんすかー?」
「あんたのせいよ」
「なにがっすか」
「……」
「小野ちゃん?」
「ごめん、今のは完璧に八つ当たり」
本当の理由すら教えてくれなかった。見え透いた嘘で誤魔化された。振られたことよりも何よりもそれが悔しくて、悲しかった。
風が吹く屋上が少し寒くて、なんだか無性に鼻がツンと痛くなる感覚をどうすることもできなくて、閉じこもるように膝に顔を埋める。空には午後の授業が始まるチャイムが響いて、消えていった。
「ねぇねぇ、小野ちゃん。元気がでるおまじないしてあげる」
「……」
「俺の顔をじっと見て」
「……?」
「元気でた?」
「腹立った」
「ウソ!?俺いつも鏡で自分の顔見ると元気になるんすよ?」
「きもい近寄らないでナルシストが移る」
「ヒド!」
「ナルシスト、低脳、バスケ部の狗」
「悪口がどんどん悪質になっていくんすけど」
「青峰大輝と同レベル」
「脳みそが?脳みそがって言いたいんすか!?」
「黄瀬」
「なんすかまだ言い足りないんすか」
「……、」
「聞こえないっす」
「…教室、戻るよ」
呆けた顔をした黄瀬は、今度は満面の笑みで笑って頷いた。
甘やかし方が上手い君
20131105
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