「髪切って、地味男」
「……どうしたの」
「どうもしないよ!切りたいの!どうもしない!」
「(何かあったな)」
スパーンと開けたふすまが勢いをつけすぎて戻ってきた。それに肩をゴツンガツンやりながら女は言う。真夜中に男の部屋に来てしかも涙目とあっちゃあ、いくら本人が否定しても何か良からぬことがあったとしか思えない。つーかまた隊長か?いや絶対隊長だ。
「別に切ってもいいけど、どんな風にしたいの?」
「坊主」
「何があったの」
「出家すんだよ!」
「だから何があったの!隊長と!」
隊長、と言う言葉に一瞬ピタリと動きを止めた彼女は鼻をすすった。あ、こいつ泣いてる。
「クソポンコツ隊長野郎がね」
「(やっぱ隊長かよ)」
「髪の毛長い方が好みだって」
「よかったじゃん」
「なんでだよ!気色ワリィよ!あいつの好みに何1つとして当てはまりたくないんだけど!」
「本当に嫌ってるよね」
「人生で出会いたくなかった人間No.1だね」
カッと突きだした親指を下に向けて、彼女はそれはそれは嫌そうな顔をした。心なしかオエッという声も聞こえた。
隊長の好みに当てはまるなんて、犬猿の仲の彼女にとっては死活問題なのだろう。それにしても髪の長さまで変えるなんて尋常じゃないにもほどがある。だいたい隊長って……あれ、隊長って髪長い子好きだっけ?
「あと隊長土方さん嫌いじゃん」
「まああっちも犬猿の仲だね」
「私マヨラーになる」
「やたら間抜けな宣言だね」
「なるったらなる。世界一のマヨラーになるわ」
「(突っ込みきれない)…でもやっぱ隊長は小町ちゃんのこと気に入ってるよね」
「冗談は顔だけにしろよ!」
「そういうの地味に傷つくからやめてよ」
「気に入られてたまるか!こっちは隊長が嫌ってやまない花柄の着物着てまで頑張ってんだぞ」
「え、隊長花柄の着物嫌いなの?」
「この前のパトロールの時そう言ってた」
「……」
「何よ」
「それ騙されてない?」
「何が?」
「だって隊長、」
「やーまざーきくん」
俺の言葉を遮って若い男特有の高いんだか低いんだか分からない声がふすま越しに聞こえた。
隊長だ。
「そこに髪が長くて花柄の着物着た雌犬いませんかィ」
「いや、雌犬は、」
「いるだろ」
「えっと」
「嫌だねィ、雌犬はふしだらで。男の匂いがするとあっちゃあどこにでも着いていくんだから」
ブツンという音が隣で聞こえた気がした。あ、これ、ヤバイかも。
「死ね沖田ぁああああ!」
「かかってきなせェ、負け犬」
「ちょ、それ刀じゃなくて俺のミント、イヤァァアアアミントンンンンン!」
いくら泣けども叫べども彼らの破壊行動は留まるところを知らない。
「私髪短くするんです、!」
ガギィイイン
「それがどうしたビッチ!」
バキッ
「服も花柄ですよザマアミロ!」
ドス
「何が言いてぇのかはっきりしな!」
バキィイイ
「どうだ、嫌いになったろドS!」
「バッカじゃねぇの、ますます気に入りまさぁその反骨精神」
「ざけんな、死ねぇええええ!」
俺の部屋を飛び出して屋根の上、月の光を背に戦う2人はなんていうかただの馬鹿だった。
一人荒れた部屋に残された俺は盛大にため息をつく。
「隊長も隊長だよ。大体隊長、」
「ショートも花柄の着物も好きじゃん」
誰色何色俺様色
(次はどんなことさせようかねィ)
(性格悪いなぁ)
20100601