こどものオモチャ




警察とは何をする仕事でしょうか。警察とは市民の安全を守って街の平穏を保つ場所なんですよ、私が思うに。だから間違っても上司のおっさんの娘と彼氏の私情調査とかよもやその娘と彼氏が入っていったホテルに張り込みとかする仕事じゃないんですよ、私が思うに。



「って土方さんに言ったらすんごく可哀想な子見る目で見られたんだけど」

「この仕事受けなきゃ真選組全員減棒だからねィ」

「権力の濫用ってこういうことなんだね。大人って汚い」

「イタイケな18歳2人にラブホで張り込みなんざなぁ」

「迷惑もいいところだよ」

「襲われたらどうするつもりでさァ」

「間違っても私は襲わないけどね」

「俺だって間違ってもお前なんざ襲わねぇ」



権力を濫用しまくった上司のおっさんは私と総悟だったらラブホに入りまくる年頃だから絶対イケるとか豪語しやがった。何がイケるのか全くもって理解不能だ。
こちとら初めてのラブホが同僚と、しかも隣の部屋の盗聴任務という事実にいささか泣きたい気持ちを堪えて仕事してるのに。私だってこんな色気も何もない男臭い仕事をしていても生物学上はメスなのだ。少しくらいはロマンスを夢見たりする年頃なのだ。



「そもそもラブホっていけすかないんだよね。ヤるための部屋のくせしてやたらゴテゴテしやがって。このベッドなんて貝殻開けた形じゃん。なにこれホタテ?ハマグリ?どこ行ったロマンチック!」

「八つ当たりするんじゃねーやい。俺にとっちゃあ隣がお前以外のメスだったら全てがロマンチックでィ」

「私だって隣があんたじゃなくて土方さんだったら良かった」

「……お前マヨネーズ野郎が好きなの?」

「いや、面白いという意味で」



実際任務の同行者に土方さんの名前も上がったのだ。しかしロリコン説が出たことによりあえなく却下された。
むしろそれだけで呼吸困難におちいるほど笑えたのだが、彼がこの場に来ていたらもっと笑えただろう。



「ああ、暇……」

「転がるなよ。お前の有り得ない体重で可哀想にもベッドが軋んでまさァ」

「黙れ沖田」

「ああ、ベッドの悲鳴が聞こえる。可哀想に」

「チュドーン」

「ぶつかるんじゃねーやい、骨が折れるだろ」

「折れろ。粉々になれ」

「こんにゃろ」



言うが早いか私の上に跨がりマウントをかけてくる沖田。こちとら負けるわけにはいかないので足を絡めて動けないように固めた。ざまあ。



「可愛くない女」

「イケ好かない男」

「なぁ暇じゃね」

「暇だね」

「俺良いこと知ってんでィ」



小さく声を落とした沖田は、私に耳を貸すよう合図をした。



















***




「盗聴なんて良い趣味してますね副長にぴったりだ」

「ありがとうよ山崎。今すぐ腹斬れ」

「え、ちょ、斬れって言いながら斬るつもり満々じゃないですか!」

「介錯してやるから大人しく腹出せ」

「遠慮します!」

「ちょっとォ、多串くん聞こえないから黙ってくれない?」

「お前が黙れ万事屋!なんでテメェここにいる」

「だって小町と沖田くんのあはんうふんが聞けるんでしょ?そんな面白いことってないじゃん」

「違いますよ、銀さん。副長は横恋慕しようとしてるんです」

「説明ありがとうよ山崎。首斬れ」

「え、なんで?違うんですか!?」



五月蝿いハエ2匹を追い払いながらヘッドホンを付け直す。俺だってこんなことやりたかねぇが未成年を預かってる保護者としては心配だからと近藤さんが俺に依頼したのだ。自分でやれば良いものを、あいにく今日は月に一度のお妙さんとのデート(という名のストーキング)なのでそうもいかないらしい。副長なんて嫌なポジションだ。



「真っ最中だったりして」

「黙れ万事屋。不法侵入で逮捕すんぞ。大体あいつらに限ってそんな色気のある話が出てくるわけねーだろ」

「そうそう、2人ともまだ18歳ですしね」

「もう18歳とも言うんじゃね?18歳なんてヤりたい盛りを文字にしたような年頃でしょ」

「でも任務中にまさかそんな」

「任務中に隣の部屋盗聴して間違ってムラムラきちゃうかもよ。俺だったら来るね間違いない」

「黙れお前ら、絶対有り得ないって言って……!」




強く言いきろうとした言葉は口から出て程なくして消えた。まさか、嘘だろ。







『あ、や、総悟……』

『口ばっかり嫌がってても身体は正直だねィ』

『やだ……やめ、ふぁ!』

『オラオラ、休んでる暇なんかねーぜ』

『きゃ、や!』






「「「……」」」




全員受信機から離れられずただ1点の、彼らの声をつむぐヘッドホンだけを見つめていた。おいおいおいおい、



「マジかよ」

「ちょ、どうすんですかコレ」

「知るかよ俺だってこんなことになるとは思わなかったんだ」

「止めに入る?止めに入んの!?」

「いや、それも野暮ってもんじゃ、」

「だからと言ってこのまま放っておくのも保護者として……」

「つか考えてる間に終わってそうじゃね」

「止めてくださいよ、生々しい。明日からどんな顔して会えば良いんですか」

「生々しいとか言うなよ、もっと生々しい。普通の顔だ、普通の顔して会えば良いんだ」

「普通の顔ってどんな顔だったか忘れちゃったんだけどどうしよう。多串くん覚えてる?」

「俺の普通の顔はどんなんでしたか副長」

「知らねーよ俺に聞くな!」











こどものオモチャ

(どう?迫真の演技だったでしょ?)

(お前女優になれまさァ)

(総悟もなかなかの悪っぷりだったよ)

(明日奴らの顔を見るのが楽しみでィ)





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