「免許?」
「うん、取ろうと思ってさ」
一週間ぶりに会った学友は、免許という言葉を聞くや否や表情をゆがませた。
「末恐ろしいことを考えますね」
「免許取得までに一体何人の血が流れることか」
「二人とも、一番最初に車に乗せてあげるからね」
「未来ある青少年の将来まで奪おうとしてますよ、この女」
「計画犯罪もここまで来ると大したもんだな。お前に四輪は早ぇよ。二輪…いや三輪で十分だ」
世間は夏休み。学校と名のつく機関は大型連休になるため。巷には繁殖する菌類の如く学生が溢れかえっている。各言う私たちも例にもれず人生の夏休みという名の暇を持て余していた。
「昨日初めての講義だったんだ」
「マジで?もう金払ったのかよ。無駄金だな」
「そのお金があれば僕の生活がどれだけ潤うと思ってんですか」
「テレビで運転中の危険行為について学ぶんだよ」
「お前が運転すること自体が既に危険行為だよ」
「今すぐ解約して僕にお金を回しなさい。今すぐにだ」
「例えばねー、道路の反対車線に向かって手を振ってる女性がいるとするでしょ?次の瞬間何が起こると思いますか?」
「何そのなぞなぞの出来損ない的な質問」
「君がその女性に当て逃げするんでしょ」
「子どもが飛び出してくるんだよ!びっくりだよね」
「誰が予想できるんだよそんな答え。メンタリストかよ」
「教習所はいつからメンタリスト養成所になったんですか」
「…あのさ」
「何だよ」
「何ですか」
「2人共、私が忙しくて遊んであげられないからって拗ねないでよ」
「……ここまで明確な殺意が沸いたのは初めてですよ、僕」
「奇遇だな、俺もだよ」
高校という3年間の青春時代を共に謳歌したアレンとティキと、何の因果か大学まで同じところに決まった。アレンは。この大学はサルの入学まで許可してるんですね、と目を丸くし、ティキは、それより何より裏口入学できることに絶望したよ、じゃなきゃお前の合格は有り得ねぇ、と私の合格通知を蔑んだ目で見つめた。どうしてこの人達を友人だと思えているのかと自分自身に問いかけた3月。
季節は巡って、あれから5か月が経とうとしていた。
「免許かぁ、俺も取ろうかな」
「本当に?一緒に通おうよ」
「どうしてまた急にそう思ったんですか。女の子と遊ぶ時間が惜しいからって授業すら休む君らしくないですよ」
「だって行きたいじゃん?女の子とドライブ」
「からのホテル」
「座布団1枚」
「有り難き幸せ」
「お前らそれじゃあ俺が節操無しの最低野郎みたいじゃねぇか。俺のことなんだと思ってんだよ」
「節操無し」
「最低野郎」
お前らのことを友人だと思ってた俺がバカだったよと、明確な怒りをあらわにした彼に心の底から賛同した。どうして私は未だにこいつらと友人でいられるのだろうか。きっと私の心が広くて清らかだからに違いない。
「それじゃあ僕も取りますかね」
「えええ!?毎月の食費にすら困っているアレンが?」
「やたら呑気な自殺か?借金苦に疲れて教習車で崖にダイブするのが目的か?!」
「だっていつかは必要になるでしょう?就職とか」
「シュウショク?」
「おいおい俺たちまだ華の1年生だぜ?」
「君たちは夏休みの宿題をギリギリまでやらない耐久レースの常連だったでしょう」
「何故今それを…」
「過去の傷をえぐって楽しいか」
「別にいいですけど、僕は助けませんからね。勝手に耐久レースしててください」
「「ごめんなさい」」
アレンの手助けなしの就活なんて、四次元ポケットをなくした猫型ロボットと同じくらい路頭に迷うに違いない。使える友達は有効活用しないとね、と心の中でつぶやいたら口に出ていた。言わずもがな飛んできたアレンの鉄槌に頭を抱えた。
そう言えばこんなやり取りを高校生の時もしていたな、なんて思い出したらなんだか笑えて来て、頭を抱えた手をそのままに肩を揺らした。
「おいアレン、お前の鉄槌のせいで名前の頭のねじがどっかいったぞ」
「何言ってんですか、元々おかしかったでしょ。ねじは彼女のお母さんのお腹の中ですよ」
「ふふ、ふ」
「…キモイ」
「気持ち悪い」
「アレン、ティキ」
「…なんだよ」
「…なんですか」
「車で色んなところに行こうね!」
一瞬きょとんとした顔をした2人は、お互いの顔を見合わせてから笑顔で私を見た。
「いや、名前の運転なら遠慮する」
鉄拳が飛んだ。
免許を取ろう!
20130924
せつ様リクエスト
「ツンデレアレンで学パロ」
学…パロ…?ツン…デレ…?
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