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ピタカゲ 続編



どうして、こうなったんだろう。
こうなってしまったんだろうか…。

どうしてなんて、俺が訊く権利は一切無い。
だって俺が訊くのはおかしいこと、だから…仕方無いんだ。

こういう歪な関係にしてしまったのは、俺自身。
まさに"自業自得"の出来事なんだ。



「テグニヒョン…?」

「っ、ビナ…。」



あいつの居ない宿舎で、ひとりぽつんとあいつの帰りを待つ俺。
電気も何も点けないで、ただひとりの空間を自分にせしめているだけ。

あいつを待っても、俺は何かを上手く伝えることは出来ないのに。
今さら、どんなツラをして、どんな声のトーンであいつに話し掛ければ良いって言うんだ?

頭の中がぐちゃぐちゃになっているとき、ふと名前を呼ばれた。
俺の名前を呼んだのはホンビンで、ホンビンはなんだか心配そうに俺のことを見据える。



「テグニヒョン、また…ハギョニヒョンのことで悩んでるの?」

「………解ら、ない。」



ホンビンは、唯一俺の変化を見抜いてくれた弟だった。
ハギョンから離れた理由も知っているし、離れたことを気にしないでも大丈夫なように気を遣ってくれるホンビンは、ハギョンとはまた別の特別な人なんだ。

でも…それでも、俺はホンビンにウソをついてしまった。
解らない、なんて、そんなわけないし解っているのに。
でも、ホンビンには言えなかった。

俺の言葉をホンビンが信じているのか、それは解らない。
解らないけどホンビンは、あんまり夜更かししないようにしてくださいよ、と微笑んで俺の手を包み込むようにふわりと握ってきた。

ああ、ホンビンの温もりが、とても温かくて心地よい。
だけど…ハギョンがくれた温もりとは全然違う…。

全然、違うんだ…。



「ハ、ギョナ…。」

「………。」



ぽろぽろと俺の頬を伝うこの液体は一体なんだ?
…いや、何かは解る。
これが"涙"というものか…。

ハギョンの面影を思い出してしまう自分が、酷くみっともない。
そしてそんな俺自身が、女々しくも思えてしまった。

そうやって情けなくも涙を流す俺を黙って見ているホンビン。
黙って誰かが側に居てくれるだけでも、俺は充分だった。
今の俺の精神を保たせてくれているのは、ホンビンだから。



少ししてから、ホンビンを寝室に戻してソファーに横になった。
ハギョンから離れて、同室のハギョンが寝るようになったソファー。
ハギョンが毎日のようにここで寝ているからなのか、ハギョンの温もりも香りも全部残っているようで…心が落ち着く。

ソファーに置かれていた掛け布団を掛けると、さらにハギョンに包まれているみたいで心地良かった。
でも、だけど…その心地良さの反対側にあるのは、ひとつの狂気。

ずっとひとりだけで、この温もりを感じていたい。
誰にもこの温もりを与えたくない。
どんな手を使ってでも、ハギョンを側に置いておきたい。

俺は自分のこんな狂気が怖くて堪らなくて…。
だから、歯止めが効く今のうちにハギョンから離れたんだ。



「好き、だ………。」



こんなにも気持ちが溢れてしまいそうなのに。
それなのにどうして、ハギョンから離れなければいけなかったんだ。

理由はひとつ。
俺が狂ってしまいそうだったから。
だから駄目だったんだ。

今まで付き合って来た人間の中に、ハギョンに対する狂気と同じ狂気を抱いたことは無かった。
それなのに、どうして………こんな感情は、はじめてだ。



しばらく横になっていたら、いつの間にか寝ていたらしい。
時計は最後に見たときよりも2周ほど回っていて、2時間近く寝ていたということに気付いた。

でも、まだハギョンは帰って来ていないらしい。
もう時間も遅いのに…何をしているんだろうか。

そんなことを思っていると、カチャリとドアが開く音が聞こえた。
ハギョンが帰って来たのだと思うと何故か急に緊張してしまい、思うように身体が動いてくれない。



「……テグナ…?」



ハギョンはこちらに近付き、そして俺の存在にも気付いたらしい。
久しぶりに訊く、ハギョンの声から出される俺の本名。
仕事の間に"レオ"としか呼ばれることが無かったから、なんだか泣きたくなってしまうほど胸が熱く…苦しくなった。

泣きそうになるのを堪えていると、降ってきたのは優しい手。
ハギョンはまるで俺が泣きそうになっているのを知っているかのように優しく、宥めるかのようにやんわりと頭を撫でて来た。

やっぱり、さっきのホンビンとは温もりが全然違う。
甘え下手な俺が、思わず甘えたくなってしまうような…そんな温もり。



「テグナ、テグナ、テグナ…。」



何度も何度も俺の名前を呼ぶハギョンの声は、なんだか震えていて。
弱々しくも思えた。

こんなに好きなのに。
どうしてこうなるんだろうか。
不器用な自分が、大嫌いだ。

ハギョン…。
俺は今でもお前が好きで、好き過ぎて狂いそうなんだ。
だけどお前に負担を掛けるわけにはいかないから…。
だから、俺はお前から離れた。



こんな不器用な自分が、恨めしい。

不器用にしか愛せない俺を、どうか許さないでいてくれ。




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