良くも悪くもない人






放課後、自分の部屋へ帰ると縁は帰宅前だった。

昼休みに目撃してしまったのは、本当に勝威さんだったのかな。そうだとしたら、相手は恋人…なんだろうか。

気を取り直して、ひとまず夕食を作ろうとキッチンへ向かうと、縁からメールが入った。

"高遠の部屋に泊まるから夕食はいらない、連絡が遅くなってごめん"と。

正直助かったと思った。今日はなんとなく、縁と顔を合わせるのが気まずかったから。

「1人なら適当なものでいいや…」

焼くだけとか煮込むだけとか。簡単なもので済まそうと冷蔵庫を開いたとき、玄関のドアの開く音が聞こえた。

縁…かな?

「縁?今メール見たんだけど、今日は高遠さんのところに泊まるんじゃ…」

ドアのほうへへ視線を向けると、そこに立っていたのは、今最も会いたくない人物であった。

「ふーん、今日あいつらいないんだ」


ちょ、っと、え!?なんで!?なんで勝威さん!?


「今日は飯ないの?」
「え…っと、今から帰ってきたばっかりで…これから…なんですけど。」
「できるまで待っててもいい?」
「…はい。」

えええ、なんで?

さっきのことが無かったとしても、この人と2人きりって初めてで緊張どころの騒ぎじゃないんですけど。俺の動揺に気づいていないのか、それとも気づいていてスルーしているのか。勝威さんはソファに座ってテレビを見始めている。

まずい、さっと作れてなおかつ旨いもの…どうしよう。急いで親子丼と味噌汁に漬物を添えてテーブルに並べようとすると、テレビを見たいからと言われてソファで食べることになった。

コーヒーテーブルに料理を並べ、ソファに座る勝威さんの隣に腰を下ろす。勝威さんは本当にいつも通りで、いただきますと言って食べ始めた。

横柄な態度でも「頂きます」と「ご馳走様」だけはきちんと言ってくれるんだよなぁ。そういうところは好印象。

ああ、なんか緊張して味よくわかんない。何も言わずに食べてくれてるってことは美味しいってことかな。そういえば勝威さんて食べてる間っていっつも一言も発しないけど…もしかしてこう見えて、すごい行儀の良い人なのか。

そして無言のまま俺達は食事を終えた。

「ご馳走様。」
「あ、はい…。」
「…ふっ、てかお前さ…。」

箸を置いた途端、突然勝威さんが笑い出す。

「顔に出すぎ。てんぱりまくってんじゃねーか!大丈夫かよ。」

そう言うと俺の頭に手を伸ばし小突かれた。いや、てんぱるに決まってるよ!普通てんぱるよ…

「あの…!すいませんさっき俺、覗くつもりじゃなくて。」
「それは別にいいんだけどさ。声かけてきたのはお前のくせにすごい勢いでいなくなるし。」
「だってあんなところに出くわしたら誰だって逃げますよ…。」
「ふーん…。」


急に黙って、勝威さんが真っ直ぐに俺を見つめる。徐々に顔に熱が集中するのを感じた。少しずつ距離が近づいてくる。これってなに、なんか、もしかして。

キスされる?

ふと縁の話していたことが頭をよぎる。逃げなきゃ。今ならまだ逃げれる。でもどうしてだか身体が動かない。

と、次の瞬間。


勝威さんの右手が俺の股間をつかんだ。


ちょ、えっ!
そっち!?いきなり!?早いよ!

予想外の展開に思考が追いつかない。どうしようどうしよう。


「お前ってさ、童貞だろ。」


そうですけどなにか。
って言いながらファスナーおろしてるし。

「勝威さん!まずいですって…!」
「なにが?」

全部だよ、って怒鳴りつけたいのをぐっと堪える。

なんでこんなことになってるの?だって俺だよ?誰でもいいの?節操とかないの?つーかさっきの男の人のことはいいのかよ。

「…あっ。」

勝威さんの手が一気に下着の中へ進入され握り込まれる。なんだかもう泣きそうだった。
ゆっくりと根元から上下にしごかれるけど、勃たない。いや勃たなくていいんだけど。混乱しすぎてもう気持ちいいとかよくないとか何もわからなかった。

「しょういさ、ん…もうやめ…。」
「…お前は真面目だな。」

それ、前に縁にも言われた。というか小さい頃からずっと言われ続けてきた。鷹臣は真面目だねって母さんからも学校の先生からも。

そんなこと考えていると、ふいに顎をつかまれて勝威さんが唇が重ねた。

唇を舐め取られた後に隙間から入ってくる。舌が絡まり合う度に頭の先まで痺れそうになる。角度を変えて奥の奥まで。


「ふぁっ…ん、は…。」
「は…っ、キスでたったな。」


知らない間に俺の下半身は完全に勃ち上がっていた。ふいに我慢汁の滲む先端を押さえつけられて身体が跳ねる。

めちゃくちゃにキスされながら下半身もそのまま刺激を与え続けられて、結局俺は勝威さんの手の中でイってしまった。

恥ずかしくて勝威さんの顔が見れない。どうしていいかわからず我慢していた涙が溢れてきた。

「おい!泣くことねぇだろ。」
「だって、こんな…なんで俺に。それにさっきの人はいいんですか。恋人じゃないんですか。」
「あ?あー…、あいつはそういうんじゃねぇよ。したいっていうから勝手にやらせてただけだし。」
「…っ!!!なんなんですかそれ!」
「知らねぇよ、そいつに聞けよ。」

ありえない。頼む方も頼まれて受け入れる方もどっちも理解できない。

「なんで、こんなこと俺にしたんですか…。」
「理由がなきゃ駄目かよ。」

駄目だろ。って言いそうになってやっぱり飲み込む。

理由も無いの?なんとなく?なにそれ…。なんだかわからないけれどすごく悲しい気持ちになった。

「…もう今日は帰ってください…。」
「いやもう入り口閉まってるから。」


うわ…ほんとにもう8時だ…。おそらくたった今、この瞬間、下級生寮の入り口は管理人さんの手によって施錠されたはずだ。

「……泊まっていくんですか?」
「そんな怯えた顔すんなよ。ひとまず風呂貸りてもいい?」

勝威さんはそれだけ言って立ち上がる。

バスルームへ向かう背中を見つめながら、ただ無事に朝を迎えられますようにと祈っていた。





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