犬とイケメン





友ちゃんの運転で片道1時間半、郊外の屋外型アウトレットモール。俺だけ先に降ろしてもらって、渡良瀬と友ちゃんは親戚の家に。後から合流するまでは2時間くらい単独行動だ。

今すぐ服を見に行きたいところだけど、店員さんに声をかけられることを想像すると怯んでしまう。女の子の格好で外に出たのは初めてで、いきなり一人で買い物しに行くのはちょっと怖かった。

仕方なく適当な雑貨屋なんかで時間を潰しながら、休憩がてら飲み物か何か買ってベンチに座ってようと思って、噴水のある広場へ向かって歩き出す。

天気は快晴。
オープンしたての週末ということもあって広場はかなりの混み具合で、噴水の周りにも沢山の人が集まっていた。

カップル。親子連れ。
屋外型モールだから犬を連れてる人達も結構いる。
あ、ドッグランも併設されてるからか。

すれ違う人たちは皆楽しそうで、誰も俺のことなんか気にしていない。

しばらくして渡良瀬からメールが届いた。『もうすぐ着くからわかりやすいところで待ってて』って。わかりやすい所ならちょうど噴水が目印になるだろう。そのまま今の自分の居場所を返信した。

青空の下、巨大な噴水は太陽の光に反射してキラキラ光る。水の勢いが強くなったり弱くなったりしながら何度も形を変えていく。

細かい霧のような水しぶきが顔に受けながら、友ちゃん達と合流したらどのお店から回ろうかなってウキウキしながら考えていた、そのとき。


ワン!って。


真後ろで犬の鳴き声が響いて、背中に衝撃。

そのままバランスを崩して前に倒れこむ。目の前に迫るのは、水しぶきを散らしながらキラキラ光る水面。


「あ、俺終わった。」って思った。


だけど次の瞬間、伸びてきた腕に抱きとめられた。

…落ちずにすんだ。助かった。

突然の出来事で反応できずにいると、遠くの方から「すみません!」っていう叫び声が聞こえる。振り返るとかなり慌てた様子の女の人が走ってくるのが見えた。そのまま少し離れた先にいたゴールデンレトリバーに駆け寄って首輪にリードを付けている。

なるほど。リードが外れて逃げ出したあのワンちゃんが俺の背中に突進したっていう話か。

飼い主さんが何度も頭を下げてる横で可愛い顔してお座りしてるけど、俺今君のせいで噴水にダイブしそうになったんだからね?ちゃんとわかってる?


「危なかったなー…、大丈夫?」


声をかけられてようやく自分を助けてくれた人の存在を思い出す。そうだ、お礼言わなきゃ。


「はい、ありがとうございました…うわっ!」
「…えっ、なに?」


やばい。変な声出ちゃった。

振り返った先にいたのは俺より少し年上くらいの男の人。線は細いけど背が高くて、なんか髪の毛とかサラサラだし、目も大きくて睫毛長くて、程よく中性的な感じで。


なにこの人。
信じられないくらいかっこいいんですけど。
まさかこんな人に助けてもらっていたなんて思わなかった。


「……俺の顔に何かついてる?」


慌てて首を横に振る。あんまり声を出すと男だとバレるかもしれない。それとももうとっくにバレてるかな。相手の態度を見る分にはそんな感じはしないけど。


「じゃあ俺行くね」
「あっ。あの、」


後々考えるとなんであんなこと言っちゃったんだろうって思う。けどなんとなくこれで終わりになってしまうのが嫌で。咄嗟に出た言葉だった。本当にあのときはそれしか思いつかなくて。馬鹿な発言だったっていうのは重々承知してるけど。


「つ…っ、Twitterとかやってますか?」


ほら。

メアドとか電話番号をいきなり聞くのって失礼でしょ。

俺なりに気を使ったんだよ。その結果がこれだよ。


「…はぁ?」


うん。そういう返事になるよね。爽やかな顔の眉間に皺が寄って、まるで不審者を見ているような目をしてる。


「あっ、見つけた!」


変な空気を遮って、遠くで友ちゃんの声が聞こえた。声のした方へ振り返ると渡良瀬と一緒にこちらへ向かって歩いてくる姿が見える。2人の顔を見るとなんだかホッとした。なんだろう、この安心感。


「モカちゃん、待たせてごめんねー」
「全然だよ。むしろ予定より早かったよね?」
「そうなの、予定がちょっと狂っちゃって…あれ?」


ここまで話したところで、友ちゃんが俺の隣の人の存在に気がついた。そして呟いたのは意外な言葉で。


「…なんで千歳くんとモカちゃんが一緒にいるの?」


不思議そうな表情で俺達2人に尋ねる。

名前を呼ばれた者同士顔を見合わせながら、正面から見てもやっぱりイケメンはイケメンだなって考えていた。






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