小さな声で最低だなって呟いた


コツコツとブーツを鳴らしながら町を歩くルーシィの手にはつい先程まで店長と値切り合戦をしていた戦利品の銀の鍵・白い子犬(ホワイトドギー)がキラリと光った。
ルーシィが粘りに粘り続けた結果、最初の二万ジュエルよりも七千ジュエルの値切りに成功したのである。
ずっと欲しかった白い子犬の鍵を手に入れたルーシィは珍しくいつもよりも変にテンションが上がっていて、その顔は無表情でありながらも目は少し輝いていてルーシィの周りには花が咲いていた。
今の彼女の頭には白い子犬・子犬座のニコラといつ契約をしようか。それ一色であった。
そんな中、町の中央広場の方に沢山の女性が黄色い声を上げながら集まっていた。その黄色い声の中には最近色んな意味で有名となっている「火竜(サラマンダー)様」の声も混ざっていた。
ルーシィの中での火竜は魔導師ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属している問題児とされている魔導師という印象しか無かった。そんは人物が女性に黄色い声を上げられたり、様付けされるような人物なのか疑問に思いルーシィは遠くからその火竜を見ようと思い近づいた。
そこにいたのは二十代後半から三十代と思われる、正直に言うと中年の男性が立っていた。ルーシィの好みではないというのもあるがその男性はまぁそこそこ顔は整っていると思うが女性に黄色い声を上げられる程のイケメンとも思えない。
…何よりも男は女に向けて魅了(チャ-ム)という魔法を掛けていた。今この場にいる女性が彼の虜になってしまっている理由はそれだろう。先程白い子犬の鍵を買った時に店長が言うにはこの町に魔導士は一割もいないらしい。だからこそ、彼の魔法を“理解”する者がおらず今に至るのだろう。


「…魔法を悪事に使うのが魔導士、ですか」


いけすかない人間だ。と心の中で悪態をつきながらルーシィは早々に魅了に掛かっている女性達を助けずにその場を去ろうとした。
その時だった。


「イグニール!!」


今この場に場違いな、少年の声が響いた。
桜髪と珍しい髪で何かの鱗の様な模様をした変わったマフラーをした少年で、魅了に掛かり沢山集まった女性たち何処から聞こえて来たのかと探していると、文字通り足下から。女性達が邪魔で仕方がなく下から来たようだ。
その誰もが予想していなかった事態が起こったが為に、魔導士でも何でもない一般の女性の何人かの魅了が解けた。
それからは、未だに魅了が解けていない女性から失礼だろとか様々な暴言を吐かれたり、火竜のサイン色紙(誰も欲しがらない)を渡されたが少年はいらないと正直に言ってはまた女性達に暴言を吐かれたり引っ張られたりとてんやわんやであった。
そんな女性達の少年への扱いに火竜は口だけの制止をかけて、今晩船を出すとか何かを言っていたがルーシィは一切聞いておらず、その大きな瞳は既に火竜を映しておらず桜髪の少年の方へと向けられているのであった。


title by [毒林檎]




前頁/目次/次頁

- ナノ -