妖精の女王からの依頼


「ところで、ナツとグレイはいるか?」

と、誰に言う訳でも無く呟いた風紀委員委員長。ではなく、エルザに対して反射神経レベルの反応を一番に示したのは、空をふわふわと飛んでいるハッピーだ。
間髪入れずに、ナツとグレイの居場所を丁寧なお辞儀と一緒に指し示す。
つまりは、エルザに二人を売りつけたのだ。

ロキの「エルザが帰って来た」という言葉一つで振りかぶっていた握り拳をお互い一時停止の如く止め。滝の如く冷汗を流しながら見つめ合っていたといのに。
ハッピーによる無情な売渡によって、瞬間顔を真っ青に染め上げる。
そして、ハッピーに指し示られた方をエルザが顔を向けたのとナツとグレイが行動を起こしたのはほぼ同時だったと三人のやり取りを少し遠い所から見ていたルーシィは証言した。

「や、やぁ…。オ、オレ達今日も仲良し、よく…。や、やってるぜィ」
「あ゛ぃ……」

「やだ、ハッピーさんみたいなナツさんって普通に気持ち悪い……」
「……ルーシィって結構バッサリ言うよね」

エルザ達と騒いでいて聞こえている様子が無さげだから、まだ良かったけど。といつの間にかルーシィの隣にまで飛んできたハッピーが溜息と一緒に零した。
が、生憎その言葉と溜息の意味を理解できないでいるルーシィ本人はと言うと、ただただ首を傾げて曖昧な言葉を口にする他なかった。

プルプルと生まれたての小鹿の如く震えながらも、ガッシリとお互いに肩を組み合っている姿を晒しているナツとグレイ。更に、隠しきれていない震え声に誰だコイツと指を刺されても可笑しくない言動を繰り返す。ナツもまた先程ルーシィが気持ち悪いと吐き捨てた通り、ハッピーの様な鳴き声?を繰り返している。
そこまで、ハッピーにとっていつものやり取りを眺めてそこで初めて成程と納得した。
普段喧嘩ばかりを繰り返している二人を知り、かつエルザとのやり取りを知らないルーシィからしてみれば。気持ち悪いの一言に集約してしまうのか、と。

「しかし、何故お二人は彼女にあそこまでの反応を示すのでしょうか?誠実に対応していれば特別恐怖感を無差別に振り撒く方ではないと思うのですが」
「それは、純粋に二人が悪いってだけだよ」
「悪い、とは?」

未だに彼女との会話中震えが止まらない様子の哀れな男性二名。
ルーシィ以外はその理由を知っているが故に、救いの手を誰一人として伸ばさない。ちなみに理由を知らないルーシィもまた救いの手を差し伸べていなかったりする。
エルザの話口調からして普通に会話をしたいだけの様にしか見えなかったからだ。故に久しぶりに会っている風を醸し出している彼女の邪魔をする気などさらさらなくて。だからこそ、何故二人が彼女に対して震えているのかがただただ疑問でしかなかった。

そんな中でのハッピーによる二人が悪いという言葉と、唐突に隣で絵を空中に描き始めたミラジェーン。
……その絵は、お世辞にも上手いとは言い難いものではあったが。ポイントをきちんと掴んだ絵だった為、現在話題の三人であるナツ、グレイ、エルザだという事だけは理解できた。

「ナツもグレイもエルザが怖いのよ」
「委員長気質であるという点に関しては理解できましたが」
「ナツは昔、喧嘩を挑んでボコボコにされちゃって。グレイは裸で歩いているところをみつかって、ね。ついでに言うと、ロキはエルザを口説こうとして半殺しにされたわ」
「全員自業自得で、ハッピーさんが仰った意味を理解しました。が、一人だけレベルが違いませんか?」

最初二名はボッコボコにしたと言った、後に続いたおまけの一名が半殺しって。基本が無表情である流石のルーシィでも呆れ顔を隠さなかった。
否、誰彼構わず女性だからという理由で口説く者はクズと呼んでも過言ではないから一切の同情の余地はないのだがとはルーシィ談。
そうこうしながら、「助けろ」という眼差しを無視し続けていると文字通り話が進んでいた。

一言。
たった一言の言葉を発しただけで、ギルド内が騒然の空気に包まれてしまったのだから。エルザという風紀委員長は台風の目と言っても過言ではなくて。又それだけの存在なのだと。
ルーシィはこの時を境に確信して彼女と接していく事になる。

「実は、二人に頼みたいことがあってな。二人の力を貸してほしい。ついて来てくれるな」
「え!?」
「はい!?」

疑問符が一切込められていない頼み事。
しかし、簡潔なその言葉に誰しもが驚愕に陥る。
一人は、エルザが誰かを誘う所を初めて見たと興奮気味に言った。
一人は、彼女が仕事先で討伐した魔物の巨大な角を指さしながらデカイ怪物を倒す様な女がかと動揺を隠せずに言った。
また一人は驚きすぎて何がどうしてそうなったのか理解に苦しむ顔をしている。

隣に立っているミラジェーンも他の皆と変わらない反応だ。あまりの驚愕の出来事に少し体を震わせながら、エルザ達三人がチームを組むというその事実に妖精の尻尾フェアリーテイル最強のチームが出来てしまったのかもしれないというとんでもカミングアウトを零す始末。
そんな周りの反応には気を止めた風が無いエルザはというと、ナツとグレイに出発は明日だと言い残してギルドを後にした。


そんな中で、ルーシィはというと。一人置いて行かれ感を感じつつも。
あぁ、彼女もまたナツとは違ってはいるものの嵐の様な人なんだなと流し目で彼女の背を見送ったのだった。
この後、ほんの少しの一悶着があったもののそれは割愛させてもらいます。



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