真面目過ぎも考えもの


名の知れた文豪、ケム・ザレオンの最後で最高の傑作品をいけ好かない独裁者紛いの事をしていた権力者から取り返し、依頼主でありそのケム・ザレオン。否、本名ゼクア・メロンの息子であるカービィ氏の依頼を完璧とは言えないものの無事完了したナツ、ハッピー、ルーシィの三人。
何故、完璧とは言えないのか。
それは、カービィ氏の依頼内容がその最後の作品である本の“破棄”であったからである。

しかし、以来の内容通り破棄をするのは時期尚早ではないかと判断したルーシィの機転により、結果、破棄をせずそのまま本をカービィ氏に渡すという形で今回の依頼は完了したのである。
その為、元々の“依頼内容”とは異なるが為に報酬の受け取りを三人は辞退。
更には、カービィ氏本人。その実金持ちでも何でもなく、寧ろあの権力者が牛耳る土地からまた少し離れた辺境の地にて妻と共にひっそりとぼろ小屋の様な場所で暮らしていた程、裕福とは程遠い生活を送っていた貧乏人であった。ナツ達を招いた時の建物は、見栄をはる目的で服と一緒に友人から借りたものだったのだ。
それを知ったのは、ルーシィは傑作品である日の出(デイ・ブレイク)を読み終えた後の独自の推理から。ナツはそもそも五感に身体能力までもが向上する滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)というのもあって、建物と夫妻の匂いの違いによってであった。その為、彼一人だけが招かれたその瞬間からあの豪勢な建物がカービィのモノでは無いと知っていたのだが、こればかりは彼のみが成せる技であろう。



そんなこんなで、魔導士ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入って初めての仕事をこなしたルーシィは現在。仕事の依頼書が貼られたクエストボードの前で顎に指を当て、その可愛らしくも無表情が常の(かんばせ)に眉間に皺を寄せ悩んでいた。
理由は、今度の仕事を選ぶ権利がルーシィにあったからである。
何でも、前回の仕事はチームの結成を依頼を受理した後に組んだ為に仕方の無い事ではあったものの、ナツとハッピーが勝手に決めたものだからだと二人自身が気にしていたのだ。
ルーシィ自身はと言うと、新米も新米で右も左も分からない為、寧ろそういうのは逆に有難かったりするのだが二人は頑なに首を振らず。次の仕事を選ぶという大役を折れる形で貰ったのだ。

そして、根から真面目であるルーシィはクエストボードの前で案山子の如く棒立ちして悩みに悩んでいた。
理由は、彼女の後ろで急かしているナツとハッピー。主にナツにあった。
カービィ氏の依頼を受けて、チームを組んで仕事に挑んだ時にルーシィは一つの事を確信したのである。



「あ、これ大概の仕事じゃあ器物損壊等で報酬を減らされるやつだ」

と。



彼の持つ辞書に“手加減”の三文字は表記されていないとみなしたルーシィは、ナツが暴れまわっても報酬が減らされないであろう。文字通りナツ向きの仕事を探しているのである。


「なーなー、ルーシィまだかよぉ」
「オイラ、待ち過ぎてお腹が空いてきちゃった…」
「もう暫く御待ちを。報酬額の良い、人工物が少ないであろう場所を戦闘地とする討伐系クエストを探しておりますので。そうすれば、ドラグニルさんも気兼ね無く大暴れ出来ます」
「お、おぅ…」

そうナツに言いつつも、大して良物件のクエストは現在ギルドには来ていないようで。
最悪、あまり報酬金額は高くない10万(ジュエル)と書かれた、アックスゴブリンの十頭討伐クエストの仕事を受けるか。
これを、一人でこなすのであれば報酬10万Jは十分な値段だろう。しかし、ルーシィはナツとハッピーの三人で一つのチームである。チームで挑むのであれば、報酬は当然の如く山分け。つまりは三等分となりひとりが得るお金は凡そ三万と少し。
現在住んでいる借家の家賃は7万J。食費、雑貨費、電気水道ガスその他諸々を込みで考えるならばただ家賃の分だけを稼いでも意味など無いのだ。

『お金のご利用は計画的に』

それがルーシィの座右の銘である。

しかし、まだギルドに所属してから一週間も経っていないルーシィ。
非正規の仕事に分類されるマカオ・コンボルトの救出と仕事は失敗という形で終止符を打ったカービィ氏の仕事の二回しか未だこなしていない。が、この間に一銭も報酬を得る事が出来ていないのは痛かった。
ルーシィの持つ旅費で現在何とか食費を賄っているのだが、それももう少しで底が尽きそうなところまで迫っていた。
ギルド内にてミラジェーンにお金を払えば料理を作って貰える。ギルドの人間であれば、少しは割引も効いたりするのだがしかしそれでも収入ゼロは痛い。痛いものは痛いのである。


「無理して、チームを続ける必要なんざねぇぜ?聞いたぜ、大活躍だってな。きっとイヤって程誘いが来るぜ?」
「ルーシィ、僕と愛のチームを結成しないかい?今夜二人で」
「丁重にお断りさせて頂きます」
「な?」

これにしようかと考え決めたその時。クエストボードの直ぐ近くにある椅子に座っていた何時かの下着一枚姿の残念な男が悩み続けるルーシィに声をかけた。その直ぐ傍には、週刊ソーサラーで彼氏にしたいランキングに入っていた軟派男のロキが立っていた。グレイの台詞の流れに乗ってそのまま口説きを織り交ぜたチームの誘いをルーシィに向けてはバッサリと切られたのだが。
それで諦める男であればルーシィにとってどれ程の吉報であったことか。その程度ではロキは諦める弱い男ではなかった。

「傭兵ギルドの南の狼の二人とゴリラみたいな女をやっつけたんだろ?すげーや、実際」
「いえ、その三名を倒されたのはドラグニルさんです」

明らかに誤って認識しているグレイに、即座に修正コメントを口にして訂正するルーシィ。
どうして、ルーシィ自身がカービィ氏の仕事の時の功績の殆どを担っているという誤りがギルドに広まっているのか。残念ながら今の彼女にそれを突き止める程の人望や、人脈を持っていない。

尚、誤りだという事を指摘されたグレイ本人。真実ルーシィの功績だと思っていたもの全てがナツの功績だと改めて知って、即座に椅子から飛び降りてナツに向かって喧嘩を売り始めた。
売られたナツもまたその喧嘩を買い、始めは睨み合いだったのに数分も経たずに殴り合いに発展する始末。
それでも、ギルド内はまたあの二人かと言わんばかりの雰囲気を出しているのを察した為に、ルーシィは止めるなどと無粋なマネはせずに先程決めたクエストの書かれた依頼用紙を千切って手に取って二人から離れたのだった。



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