不法家宅侵入罪


昨日契約したばかりの家。その家のある一室の窓から湯気が出ていた。
家賃は7万(ジュエル)、は契約時に負けて貰ったからこの値段だけれど、元々本来の家賃は10万Jだ。それだけの間取りの広さがあり、収納スペースも多い。真っ白な壁に、木独特の自然の香り。少しレトロな暖炉に竈までついていて、家具がまだ少なくとも客人を招ける程度にはインテリアが既にある。
お風呂もついていて、これから先いつでも自分の好きなときに入れるというのはいいものだ。銭湯などだと、開店時間にならない限りまず入れないしゆっくり一人で入ることなど不可能。のんびりしたい時、どうすると問われればお風呂に入るか本を読むことと即答することだろう。

極めつけて最高なのは自室だ。
好きな本を沢山収納できる天井に届く程の高さを持つ本棚。趣味に徹することが出来る机。書きやすさ抜群で、思わず一目惚れをして買った万年筆と羽ペンもその机の上に置いてある。これから、数少ない趣味であるアレを書くのが楽しみで楽しみで仕方がない。
泡を流すためにずっと出ていたシャワーの水をキュッと止める。濡れて重力に従い落ちていく滴をタオルで拭き取っていく。もう一枚タオルを取り出して体に巻き付けたところで気付いた。着替えを自室のベッドの上に置きっぱなしにしてきてしまったことを。


これは、風を拗らせてしまう前に早く着替えるべきだと考えて、今では早くも愛しにまでなった自室へと足を向ければ…。


「よっ」

「あ、あたしの部屋…」


太々しく人の部屋のソファに座り、更に一体何処から取り出したのか、否持ってきたのか。今はそこはどうでもいいこと。
それ以上に、我が物顔で寛いでいる彼とハッピーさん。あ、机の上だけでなくソファとカーペットにまでお菓子の食べかすが落ちてる…、シミがついてしまう前に掃除しなければ。あぁ、ハッピーさんが木で出来た柱で爪を研ぎ始めてるし…借家だからやめてください大家さんから大目玉を貰ってしまいますそんなもの欲しくないですいらないです後生ですからやめてください。
…とりあえず、不法侵入である彼らを訴えようかと頭を過ったものの、何はともあれ先に着替えるのが先だろうという考えに行き着いて着替え始めた私は早々に彼らに染まってきてしまっているのだろうか…。
あぁ、変わらずお二方が部屋におられたので、ベッドの上に置いていた着替えを持って脱衣所で着替えましたよ。はい、まぁタオル一枚巻いた姿で目の前に現れても顔色変えなかったので、つまりはそういうことなのだと何となくは分かっていますが、まぁ、常識的に考えて…。流石に殿方の前で着替える訳にはいきませんよ、ね?


「流石にまだ家具も揃いきっていない上に、木箱とかが散らばっている状態の今に来ずとも…」

「あん?」

「散らかっている今ではなく、キチンと片付けてから招こうと思っていましたのに…」

「別に気にしなくていいんじゃねぇの?」

「それにそんなに散らかってたりとかしてないよね?」


つい、先程貴殿方によって床やソファを掃除しなければならない必要性が発生しましたがね。
何て言葉は内の内にへとし舞い込んで。
しかし、当の本人達は紅茶を飲んでのんびり寛いでおられる。というか、いつこの場所がばれたのだろうか、あたしはまだストラウスさんにしか報告をしていないはず、あ、ストラウスさんから聞いたんですかそうですか。

その後は、今の今まで契約を果たしていなかった子犬座のニコラと契約を果たしたり、なんやドラグニルさんに軽い騙しを受けたのだけれど、それはまたいつか。


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