後悔先に立たずとは本当によく言ったもの


バルカンとドラグニルさんとの戦闘シーンは正直言って、あたしが見る限り初めて見る一方的な暴力は幼い子どもには早すぎると勝手ながら判断させてもらったので、その戦闘シーンのみシャットダウンさせてもらいました。
私なりにその場面を幾つかまとめるならば、


一)竜滅の炎を纏ったドラグニルさんの華麗で綺麗なアッパーキックがバルカンの顎にクリーンヒットしました。
二)その次にブチ切れたバルカンが洞窟の天井に連なっている氷柱をその強靭な両腕でドラグニルさんに投げつけて攻撃を繰り出していましたが、炎を使うというのもあって体温が元々高温なドラグニルさんの体に少し触れた瞬間蒸発していました。常識的に考えてありえないなと思いました。
三)氷の氷柱は一切効かないと完全に有利な立場に立っていたドラグニルさんでしたが、バルカンが目敏くその時気絶していたタウロスの斧を見つけてそれを好き勝手に振り回していましたね。
四)バルカンが振り回すタウロスの斧をドラグニルさんが真剣白羽どりをして、その高温の両手で振り下ろされた斧を何故か溶かして溶かして溶けたその斧の鉄がポトリと口に落ち含んで、銃弾のように吹き付けて攻撃していました。…この辺りから、あ、ドラグニルさんの戦闘スタイルは人間染みてないなとも思いましたまる。
五)ラストに竜滅の炎を纏った拳でバルカンをぶん殴って圧倒的勝利を手に入れました。


と、こんな感じでしょうか。
ちなみに、殴り飛ばされたバルカンは洞窟の穴が開いた壁に綺麗にはまってしまう。というなんともお間抜けな展開がありましたが。


「流石はドラグニルさんです。と、言いたいところなのですが、彼から情報を聞くのではなかったのですか?」


「はっ!しまった!!」

「見事なまでに穴に詰まっちゃってるね」

「はい、華麗で見事な炎を纏った右ストレートでした」


と、拍手を交えながら淡々と本音を交えた感想を述べれば何故か頬を少し赤く染めながら五月蠅いと叫ぶドラグニルさん。
…彼を苛めるのが少しだけ楽しいと思ってしまったのはここだけの話にしてください。

ともすれば、ドラグニルさんの鉄拳によって穴に嵌って気絶したバルカンんを起こすことが出来るか。
もう一度殴れば目を覚ますのではないかと暴力的な案を意外にもハッピーさんが出したものの、次は永遠に目を覚まさまない可能性の方が遥かに高いため即却下。
ほぼ常に氷点下の温度を誇り、ほぼ年がら年中冬であるハコベ山。そのため、顔面に水でもぶっかければあまりの冷たさを超えた痛みと寒さで目を覚ますのではないかと、自分も案を出すものの何故か却下。解せぬ。
あとで、聞けば大概の水は凍ってしまうため、水をかけるというより氷で殴ってしまうという結果になるのだとハッピーさんから聞いて納得しましたが。

未だに気絶しているバルカンを起こすために、あーでもないこーでもないと三人揃ってない頭を必死に振り絞るもののロクな案は一向に出ず。
結局、魔法を一切使わない。
ドラグニルさんの純粋な右ストレートという名の暴力で起こそうかと落ち着いたあたりであった。

ミミミミミ…
と、妙に耳につく音が洞窟内に木霊した。
何事かと、三人ほぼ同時に音源であろうモノに。
穴に嵌っているバルカンに目を向ける。
向ければ、毛の生えたバルカンの体が徐々に鱗のような、否、ある魔法特有の煉瓦のような長方形の形をしたものが何かから浮いてきている。
アレは、何だっただろうか?
つい最近にもあの特有のアレを何処かで見かけたような気がする。そこまで、昔というわけでもなく、おしてそこまで記憶力は悪くないと自負していたのですが。

未だにミミミ…、と音を鳴らしているバルカンが突如、その特有の鱗(?)が浮いて出てきた隙間から光が漏れ出す。
その様子になんだなんだと思わずファイティングポーズをとり慌てふためくドラグニルさんに、いつの間にかあたしの後ろに隠れるハッピーさん。
そういう、あたしはどうしているのかと、聞かれれば片手は首元に持ってきて肩にかけている毛布を落とさないよう掴んでいて、もう片方の手で腰に付けている鞭に手を当てています。
残念なことにタウロスは未だ気絶中。
横道十二門の強制閉門がまともに出来ていない中で、二体同時開門何てもってのほか。無理にやって魔力をすべて失って荷物になるなんて死んでも御免だ。

どんどん、バルカンから出ている光が強くなり、最後には思わず目を瞑ってしまう程の眩しさにまでなる。
それは二人も同じことで。
目を瞑っている間に耳にボフンッと魔法か何かが解けたような音がしたと思った途端、突然の音に驚いて目を開けてみればバルカンが嵌っていた筈のところに見知らぬ男性が一人。
挟まっていたバルカンとまったく"同じ"姿勢、ポーズで。

バルカンの代わりに、男性がその場にいたのだ。


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