間違いは、誰にだってあるさ


問)以下の文章を読み、彼女の現状を答えなさい。

目の前の宙に飛ぶは深紅の水玉と雪を彷彿させる白い歯。汚れは一切見られない。よく磨かれた白い歯。
そして、現在契約している星霊達の中で一番純粋に力が強いタウロスとバルカンの策略によって崖へと突き落とされた筈のドラグニルさん。
少し奥の方にはこの目の前の現状を理解しているような感じを一切見せつけない程間抜け顔を晒している凶悪モンスターバルカン。


答)バルカンを倒す為にルーシィが召喚した筈の星霊タウロスが、ハッピーさんによって助かったドラグニルさんに蹴り倒されているのをただ眺めている(蹴られたことによりタウロスの歯と血も飛んでいる)。



「ドラグニルさんが無事で無傷だということはとても喜ばしいことです。が、何故タウロスを蹴り飛ばしたのですか」

「は?タウロスって誰だ?オレは牛みてーな怪物しか蹴ってねーぞ?」

「その牛みたいな怪物があたしが召喚した星霊、金牛宮のタウロスです」


「あたしの大切な仲間であり、大切な、友達です」


そう言った瞬間。
ドラグニルさんは黙り込み、顔を少し下に落としてしまった。顔を下に落としたことにより前髪がかかり目元に影が入ってうまく表情が読み取れない。

あたしは何か可笑しなことでも口にしてしまったのだろうか、と最初の一瞬は思いはしたが、しかし星霊は仲間であり友達であるというのはあたしの嘘偽りが一切無い本音。
星霊が仲間だとか、友達だとか随分と可笑しな思考をしているなお過去に言われたことが無かったわけではなかった。それでも、逸らさず捻じ曲げずに突き通してきたもの。
ドラグニルさんにも可笑しいと言われてしまうかもしれないが、変わらずあたしはコレを突き通す。


そう、覚悟した時だった。
不意にドラグニルさんがボソボソと何かを呟き始めた。だが、残念なことに聞き取ることが出来ない。
今は洞窟内だから忘れそうになってしまうが、洞窟の外。ハコベ山は現在進行形で吹雪いている。その為、洞窟の外の吹雪く音などが五月蠅過ぎてうまく聞こえない。
つい先程まで、この五月蠅さでも普通に聞こえていたというのに。
もしかしたら、ドラグニルさんにとってもあたしの声も聞き取りづらかったのかもしれない。今度から気を付けよう。


「……そうか、あの牛は、ルーシィの仲間だったのか」


タウロスがドラグニルさんによって蹴り飛ばされて以降ずっと無視され続けていたバルカンは、今の今まで何故かは分からなかったがジッとその場で立ち待っていた。
しかし、とうとうしびれを切らしたのかその大きく発達した両腕も使いゴリラのような走り方で突進してきた。

バルカンに背を向けた状態であたしと向かい合っているドラグニルさんは相も変わらず顔を下に落としている。
バルカンがこちらに向かっているということをドラグニルさんに慌てて伝えるも死体の如くピクリとも動かない。
もう一度、背後からバルカンが迫ってきていると伝えるために口を開こうとした。


「妖精の尻尾のメンバーは全員仲間だ。じっちゃんもミラも、うぜぇ奴だがグレイもエルフマンも…」

「わ、分かりましたから!後ろから来てます!!」

「ハッピーも、勿論ルーシィも仲間だ」

「………!」


ドラグニルさんがそうあたしに向かって言った瞬間だった。
勢いよく突進してきたバルカンの攻撃をすれすれのところで屈んで避けた後に、足に炎を纏わせて見事顎に蹴りを食らわせてついでであたしも巻き込まれそうだったのを助けられた。
顎を蹴り飛ばされたバルカンは一瞬で白目を向け、口元からガチッと嫌な音を立ててバランスを崩し、元々突進してきたときの勢いプラスドラグニルさんの蹴りによる追加によって顔面から地面に着地してズザザザッと音を立てながら滑って行った。


「早くマカオの居場所を言わねえと黒コゲになるぞ」


顔面で間抜けで痛そうに滑っていくバルカンに向かってドラグニルさんは分かり易い挑発をする。
そんな挑発に猿公バルカンは簡単に乗ってしまったのは一々ここに書かずとも分かることだと思う。



title by [Ovrture]




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