出逢って別れる運命


先程まで猛吹雪により視界最悪だった環境から、一転して場所はハコベ山の何処かの洞窟。全体的に薄暗くはなったが、猛吹雪による雪山と比べれば洞窟内の方が視界は比較的良好になった。
まぁ、正直に本音を言えば視界が良好ではない方が良かったのだろうが。

今現在ルーシィとホロロギウムは洞窟の真ん中に立たされ置かれ、その周りを攫った張本人であるバルカンは奇妙で面妖な踊りをしていた。
強く発達した両腕を上下に振りながらウッホウッホホと歌いながら踊っているのである。
ちなみに、このバルカン、ルーシィとホロロギウムを攫ったのはどうも女が大好きだかららしい。何というエロ猿。
時折、ホロロギウムの中にいるルーシィを見るためにその猿顏を度アップにして近づいてくるもんだから、一体何度顔を顰めることになったか。


「ルーシィ様大丈夫ですか?」

「…むしろ、貴方の方が大丈夫なの?既に契約時間は過ぎているわ」


今の貴方は私の魔力によってではなく、己の魔力よって人間界に存在し続けているでしょう。
そう言えば、まだまだ大丈夫ですと答え尚且つ私の心配をするホロロギウムは本当に紳士だと思う。
しかし、このまま人間界に居続ければ、それも星霊魔導師ではなく星霊自身の魔力で居続けれそれは星霊の生命にも関わってしまう。

そう考えたあたしは、ハルジオンに着くほんの少し前に新しく覚え使えるようになった強制閉門のことを思い出し、未だに自身の魔力で人間界に居続けあたしを守ろうとしているホロロギウムを強制閉門しようと集中した。
あたしが強制閉門をしようとしているのに気づいたのだろう。ホロロギウムは慌て始め止めるよう口を開けかけたところでスゥッと消えていった。

ホロロギウムが強制閉門により、精霊界へと帰ったことにより今までぬくぬくとしていたものが一瞬で冷たく痛い冷気に身体が晒され、更にバルカンとの距離がホロロギウムが消えたことにより、鼻が触れてしまうのではないかと思ってしまう程の至近距離でバルカンの顔面が度アップしてきたもんだから思わず顔面グーパンしてしまったのは仕方がないですよね?
こんなの、本能的生理的に反射神経で無心で殴ってしまいますよ。ここで、ビンタという女の子らしい選択肢よりも純粋に攻撃力が高いグーを選択するのがあたしです。女の子らしい?お母様がお亡くなりになられたあたりで実家の暖炉に捨てましたね。
あぁ、痛かった。
ビンタの方がこちらに返ってくる被害が少なかっただろうか。でも、気持ち的にはグーがよかったので気持ち優先で選んだということで。

顔面を殴られるなど予想していなかったか、それともそこまでの予想する程の知能が無かったからなのか見事にグーパンをされたバルカンは思わずひるんで何歩か後退りした。
その隙を見て、あたしはバルカンとの距離を取りドラグニルさんから借りている毛布を肩にかけて落ちないように手で掴みつつ、逆の空いている手で腰につけているホルダーに入っている幾つかの鍵から金色のやつを一つ取り出して構えた。


「貴方はマカオさんという男性の方をご存じありませんか?」

「あ"ぁ"?男?」

「ご存知無いのであれば貴方に用は無いので、力づくで退かさせてもらいます」


先が斧のように形に加工されている金色の鍵をバルカンに向けて構えた状態で緊張状態が洞窟中に広まる。
突如として顔を、それもグーで殴られたバルカンは、例え女好きの変態だとしても怒りに触れてしまっているようで声に太く低いドスが入っている。
凶悪モンスターの括りに入っているバルカンを相手にするのは初めての為、無傷でいられる自身は正直無いが負ける自身も無い。勿論勝つつもりで挑まなければこういうのは気持ちから負けてしまうだろう。
星霊を呼び出していざ勝負という、そんな瞬間だった。


「大丈夫か!?ルーシィ!!」


全速力でやっと追いついたと叫びながら土煙ならぬ雪煙をたてながら走ってきたのは男にしては珍しい桜髪で竜の鱗のような特徴的な模様のマフラーを首に巻いているドラグニルさんだった。
そこまでは、まあ普通に格好良かったのだが洞窟内に入ってきてすぐに雪に足を持っていかれて滑りそのままスピードのままで壁にドガンという大きな音を立ててぶつかっていった。その様子に普通に登場することは出来ないのだろうかと思ってしまったのはもうお約束と化しているのかもしれない。

逆さ状態で転げたままの状態であたしの無事を確認してきたので、一応今のところは大丈夫だとその心配に対しては答えた。見た目とても格好つかない状態なのだが。
というか、実は現在ドラグニルさんは今洞窟内にはいません。はい。

何故かと聞かれれば、マカオさんをバルカンがどこかに隠したと何故かドラグニルさんは決め込んでいて、バルカンに案内されたと思ったら崖に目の前で落とされたからです。
いや、多分大丈夫だろうと信じたいのですがね。ドラグニルさんはとても強いですし。ただ、崖の下が真っ暗で何も見えないので凄い心配なんですがね。
落とした張本人でもあるバルカンはというと男はいらないだとか、女がいいだとか女好きだとかまあ次々と出るわ出るわ変態的な単語の数々。

このエロ猿に対してイラつくのは当然のことだと思う。


「とりあえず、とっとと終わらせてドラグニルさんの安全確認をしなければならないので、抵抗せずに殺られてください」


ホロロギウムでぎりぎりいっぱいまで召喚し続けていたので、あたしの魔力がどこまで持つのかが分かりませんが、ね。



title by [秋桜]




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