己の格好を恨む


ガタガタっと揺れる馬車。残念ながら窓は無くまた振動音が想像以上に大きいため外の音が聞こえなかった。集中して耳を済ませてみれば外から強い風の音が聞こえてくるのだが、それだけで外の様子の想像が残念ながら出来ない。

だが、今はそんな事を考える暇もなく目の前の光景に軽い呆れの眼差しと持ってきていた水を彼に渡した。


「列車の時もそうでしたが、乗り物系に弱いんですね。大丈夫ですか?水、飲めますか?」

「お、おぉぉ…」

「いつもの事だから気にしなくていいよ。それより、どうしてルーシィついてきたの?」

「ストラウスさんに仕事の様子などを知らないだろうからという意味を込めての見学とお二人の見張り?的なもの任せると言われたので」


あたし個人としては、別にギルドに入ったその日に見学的なものが無くともいいのではないかと思う。妖精の尻尾に入った今、あたしはこれからハルジオンに住み暮らした方がこれからギルドに通うときずっと便利で楽である。
何より、今までこの身一つと星霊達と旅をしてきたのだ、家などあるはずがない。

その為、サンドイッチを食べ終えたら借家を
探そうと予定していたのだが、ストラウスさんの先の言葉により探すに探しに行けなくなったのだった。


「そういえば、ハコベ山というのはどういった場所なんですか?」

「ハコベ山はね、四六時中雪が積もっている山なんだ。真夏でも吹雪いている時があるんだよ」


そうハッピーさんが言った言葉にあたしは思わず自分の身なりを確認した。
今現在のあたしの格好はと言うと、ノースリーブの服にホットパンツというものだった。正直雪山に行く格好ではない。
夏も下は普通のズボンでも靴はサンダルで上にいたっては下着も着ずにベスト一枚である。似たような格好ではあるが、彼は火の魔導師というのもあり雪山に登ったところでおそらくは問題ないのだろう。
問題はあたしである。

ハッピーさんもおそらくあたしの今の格好を見て黙っている。魔導師だからとか関係無く今のあたしの格好は体を壊す。最悪凍死する。
ハッピーさんがドラグニルさんが毛布持っているから借りたら?と言ってくれたが、早々に迷惑をかけるわけにもいかないので、女は度胸だと言って断った。
ここで、風邪を引いてもそれは自分の自業自得なのだから。

そう決めた時丁度空気を読んだかのようにガタッと音がして馬車の揺れが止まった。
その瞬間つい先程まで倒れていたドラグニルさんが止まったと叫びながらガバリと起き上がった。復活したようで何より。先程まで真っ青だったのが嘘のように元気になった。

飛び起きたドラグニルさんの手によって、少し乱暴に馬車の扉が開けられる。
瞬間、暖かい馬車内に吹雪が入り込んで温度が一気に奪われてくる。視界に入るのは一面雪で猛吹雪真っ只中の銀世界。


あたし、風邪をひいてしまわないだろうか。
心配になった。


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