現実逃避促進中


ドラグニルさんとハッピーさんに妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドまで案内してもらった所までは何も問題は無かったと自分の中では思っている。
ただ、自分の中でのちょっとした反省と言えば、港町でドラグニルさんの事を思わずナツさんと呼んでしまった事だろうか。
あの後、きちんと謝りました。
気にしていないとお二方は言ってくれたけれども謝った。

ドラグニルさんは、ギルドの玄関口を壊れるのではないのかと思ってしまう程足で思いっきり蹴り飛ばし、叫びながらただいまと言った。その横でハッピーさんは気にせずにただいまと言っていて、あ、いつものことなんだと思い突っ込まなかった。

ギルドの中に入ればたくさんの魔道士が椅子に座ってご飯を食べていたり何かを飲んでいたり、騒いでいる人もいれば仕事の内容を相談している人もいればと色々だった。
何か紙が画鋲でたくさん貼り付けられたボードの前に立っている人も何人かいる。
ドラグニルさんがギルドに入って早々に誰かの顔面を助走つきで跳び蹴りをしていたけれども、それ以上に憧れていた妖精の尻尾のギルドに来れたというのが大きくて気にも留めなかった。
入って早々に喧嘩を吹っかけたというのもあってか、先程まではザワザワとした騒がしさから、物が投げられて床や壁に当たる音や、何か(主に人が人を)を殴る音などが聞こえてきた。中には怒号も入っている。


「ナツが帰ってきたってぇ!?」


突如、ドシドシと大きな足音をたてながら見た目が酷く残念なイケメンが歩いてきた。
どう残念なのかと聞かれれば、室内とはいえ下着一枚という外を歩けばすぐさま変質者として訴えられそうな人物としか答えられない。顔はイケメンの部類に入るのではないのかとルーシィ自身は思う。他の女性が見て彼がどう映るのかは分からないのだけれど。
そんな彼に対して注意を言う樽で酒を飲むウェーブのかかった黒髪の綺麗な女性がいたり、下着一枚の人とドラグニルさんが喧嘩という名の殴り合いを始めてしまい、グチャグチャになってしまったギルド内が更に壊れたりするのだろうかと思ったところに、見た限り銀髪の不良のような大きな男の人が注意をしたと思えば一撃で簡単に玉砕された。
その他にも、いつかの週刊ソーサラーに載っていた“彼氏にしたい”という名のランキングの上位ランカー(だった気がする)のロキという魔導士もいたがただの女たらしという感想以外抱かなかったりと、見た限りまともな人が一人もいなかった。

ただ喧騒の中を巻き込まれない程度に隅っこにポツンと立っていると、隣から銀髪の美人の女性が「新入りさん?」と言って近づいてきた。


「み、ミラジェーン・ストラウス…さん?本物の…」


呆然としながら呟くように目の前の綺麗な女性の名前を言うと、少しの間見惚れていたけれど直ぐに我を取り戻し、今も尚目の前で起こっている惨状を失礼だとは思ったけれども指をさして放置していていいのかと聞けば、いつものことだとまるで聖女のような笑みをストラウスさんは答えた。
そして、それだけではなく他に何かを言おうとした矢先にどこからか酒瓶が飛んできてストラウスさんの頭に見事にクリーンヒットした。
その光景に驚かないわけがなく、情けないながらも取り乱してしまうと酒瓶が当たったところであろう場所からツーッと一筋の血が流れていた。


「楽しいでしょ?」


「そ、それよりも血が…、待ってくださいハンカチがあるのでこれを濡らして当ててください」


何も無いよりかは幾分かマシだろうと思い、喉が渇いた時用として買っておいた水でポケットから出した何の飾り気も無い白いハンカチを濡らしてストラウスさんに出来た傷の部分にあてがった。
そんなあたしのとった行動にその大きな目を更に大きく見開いていたけれど、ハンカチを受け取ってはにかみながらありがとうと言ったのだった。


その後は、本当に大変だった。
そんなに時間が経っていないはずなのに、半日分以上の時間が経ったのではないのかと勘違いしてしまうほど濃かった。
ストラウスさんにハンカチを渡した直ぐ後に、下着一枚姿のイケメン変質者がドラグニルさんにその下着を取られて、いわゆる生まれたままの姿、全裸の姿でこちらの方に飛ばされて来た時は流石に焦った。
正直に言って男慣れなどしていなくて、全裸の状態ということだけで両手で顔を隠して見ない様にしていたというのに「お嬢さん、よかったらパンツを貸してくれませんか?」と言われて更に顔が赤くなってミラジェーンさんが「女の子にそんなのこと言わないの!」と言って怒っていたけれど、取りあえず隠すものを隠してほしかったからスーツケースの中に入れていたバスタオルを渡して早く隠してと言った。
貰ったバスタオルを腰に巻いてまた喧嘩しに行き、更に喧嘩が発展して何人かの魔導士が魔法を使おうとしたその瞬間だった。


「やめんかバカタレ!!!!」


3メートル。いや4メートル近くの巨人が何処からともなく現れた。
その大きさに圧倒されているあたしを他所に、ストラウスさんがマスターと目の前の巨人に対して呼んだため、思わず「これがマスター…?」とコレ呼ばわりしてしまった。
というか、まだ、本当に一時間も経っていないはずなのにこんな有様で、あたしは妖精の尻尾の魔導士としていられるのだろうか。
まだ申請もしていないのに、心配で不安で仕方が無かった。



title by [毒林檎]




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