冷たい風が頬を擦り抜けた


「ぷはぁー!食った食った!!」

「あい」


時は流れて同日の夜。
ルーシィの奢りとなったレストランのメニューを片っ端から食べ切ったナツは膨れたお腹をポンポンと叩きながら満足そうな顔をしていた。
その隣で手摺の上をバランスよく歩いているのはナツと共にいた青毛の喋る猫のハッピーである。
適当にブラブラと夜の町を歩いているとハルジオンの港が一望出来る場所まで来ていた。そんな時、丁度一隻の船が出ていた。
ナツは船を見てそして想像して直ぐに気分を悪くしたが、そんな時偶然通った女二人組が今出港した船に妖精の尻尾(フェアリ-テイル)火竜(サラマンダ-)が乗っているのというのを耳にしたナツは口を青い顔をしながらも船に目をやりながら、どこか変な胸騒ぎが起こっていたのだった。


場所は変わってつい先程ハルジオンから出港した船の船内。
その船のとある一室のソファにドレスアップをしたルーシィが座っていた。部屋に入るまで見た他の女性達は皆美人でとても楽しそうに談笑をしていたり、出された豪華な食事やワインに手をつけていたりとこの船上パーティーを楽しんでいた。無論、女性達皆綺麗にドレスアップしている。
そんな中、ルーシィだけは相変わらずの無表情だったのだが。
そんなパーティーを微塵も楽しんでいないルーシィのいる部屋にこのパーティーの主催者である火竜がガチャと扉を開けて部屋に入ってきた。


「お待たせ、早速ワインで乾杯といこう」

「他の女性達は放っておいてよいのですか?」

「いーの、いーの。今は君と飲みたい気分なんだよね」


そう言いながら指を一つパチンと鳴らすと、先程ルーシィ用に入れられた葡萄酒のワインが雫となってフワリと浮いた。
火竜は浮かせたワインの雫を手の動作に合わせてスーッとルーシィの口の中に入るように動かした。


「口をあけてごらん。ゆっくりと葡萄酒の宝石が入ってくるよ」


ウザい。
火竜の行動、言動全てを総合しルーシィが抱いた感想はその一言に尽きた。
確かに魔導士でも何でもない一般人から見ればよい見せ場となるのだろうが、生憎のところルーシィも魔導士である。
更には元々胡散臭い人間だと思い、やはりこんな場に来るべきではなかったと思っているルーシィにとってそれは、もう本当にウザい以外の何ものでも無かった。
だが、それを流石に変に断るわけにもいかず、我慢して少々震えながらも口を開けた。そして、ゆっくりと葡萄酒がルーシィの口の中に入りかけたその瞬間、左手でその葡萄酒を払い落とした。


「これはどういうつもりですか?睡眠薬、ですよね」

「ほっほーう。よく、分かったね」

「勘違いしないでください。あたしは妖精の尻尾に入りたいとは言いましたが、貴方の女になるつもりは毛程もありません」


そう葡萄酒がルーシィの口の中に入る寸前、睡眠薬独特の匂いが鼻を掠めたのである。普通ならば流石に気づかない僅かなものだったが、葡萄酒の移動速度がゆっくりだった為気づくことが出来、そして払い落とすことが出来たのである。
そんなルーシィのなんの前触れもない行動に相手は一瞬訝しんだが、直ぐにその顔を悪役の様に歪めさせニタァといった効果音がつくのではないかと思うような悪どい笑みをした。
男が嗤ったその瞬間、ルーシィの背後からルーシィよりもずっと大きい男の手が突如現れ、そしてルーシィの細い腕を掴み逃げられない様に拘束した。
男達は皆大きく見た感じ海賊と言われても可笑しくなく、部屋を仕切っていたカーテンを開けながらぞろぞろと沢山やってきた。
ルーシィは何とか解けないかと抵抗をするも男達の方がやはり力は強く気がそっちにいっていたその時に不意に顎を掴まれくいっと無理矢理顔の向きを変えられた。


「ようこそ我が奴隷船へ。他国(ボスコ)に着くまで大人しくしていてもらうよ、お嬢さん」

「な、ボスコ!?」


火竜曰く、初めから商品にするつもりで女性達に魅了を掛けたり、ルーシィに話を持ち掛け船に連れ込んだなどと誰も聞いていないのにペラペラと喋りだした。
周りの男達も含めた話ぶりからして恐らくこれが初めての事ではないということは明白。
ルーシィは内心がどんどん冷え冷めていくのを感じずにはいられなかった。


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