伝わらない鼓動




ふと思ったから言ってみた。ヒソカはそのくらいの軽い気持ちでその言葉を口にした。

それは、血の匂いを漂わせて帰ってきた団員に「人を殺してきたのかい?」と聞くような、普通の人間の感性で言ったら今日の天気を聞くくらいの軽い話題のはずだった。しかし、その言葉を言った時のマチの反応は、ヒソカの予想に全く反するものだった。


驚愕と戦慄、そしてそれを悟られてしまった未熟な自分への後悔。目を見開き唇を僅かに震わせたマチの顔には、そんな色合いがあった。しかし、その色合いが見えたのはほんの一瞬の事で、ヒソカが瞬きをした次の瞬間には一切が消え去り、いつも通りの勝ち気な瞳に戻っていた。


「蜘蛛はクロロを頭として動いている。クロロが団長になる事を決め、必要なメンバーを集め、掟を決めたからこそ、今の幻影旅団があるし、クロロが頭であるのなら……と手足になることを決めたやつもいる。だから、『好き』か『嫌い』かって聞かれたら、みんな『好き』って答えるんじゃないの? 嫌いな奴の下で働きたい奴なんていないだろ」


いつも通りのぶっきらぼうな物言いで放たれたその言葉は、確かに真実を含んでいた。団員に団長が「好き」か「嫌い」か尋ねたら、皆言葉はそれぞれだとしても「好き」と答えるだろう。だが、ヒソカが尋ねた問いは「キミはクロロが好きなのかい?」というもので、嘘つきゆえに他人の嘘や言葉の裏に隠されたモノに敏感なヒソカは、すぐにマチが論点をずらしている事に気付いた。


「ククッ、確かに。ボクも彼のこと、『好き』だよ。……壊したいほどに、ね」


誰にも告げられない感情を胸に隠していると気付いたにも関わらず、ヒソカはそれを言及せずにむしろマチの言葉に乗った答えを返す。トランプを片手でさばきながらちらりと視線を送ると、マチはヒソカの変態的な発言に強い不快感を示しているようだった。眉を歪め、ゴミでも見るような目を向けている。


「ああ、そうそう。キミも壊したいほど好きな相手の一人だよ」


追い討ちを掛けるようにウインクをしながら言えば、マチがふんと鼻を鳴らして背を向ける。しかしヒソカは、見逃さなかった。マチがその背中の裏でほっと胸を撫で下ろしていることに――。


「ククッ……どうやって遊ぼうかなァ◆」


彼に彼女の想いを暴露したところでそのダメージは高が知れている。どうせ壊すなら一番イイ時に壊さなくては面白くないと、ヒソカは誰もいなくなった空間でトランプ遊びをしながらククッと喉を鳴らした。

まずは彼女がどこまで彼の事を慕っているか探ってみよう。ラブゲームのスタートだ。


「簡単にボクなんかに堕ちないでくれよ……マチ」


これが、ヒソカとマチの出会いだった。ヒソカは扉の向こうに消えたマチに向かって、いつまでも喉を鳴らしていた。





そう、扉の向こうに消えてマチにヒソカが喉を鳴らし続けていたのはもう何年も前のこと。

観戦者の熱狂的な歓声が遠くに聞こえる薄暗い通路の中で、ヒソカはその人物の姿を認め足を止めた。カストロ戦を終えたヒソカの目に入ったのは、壁にもたれかかって腕を組んでいるポニーテールの女性。彼女は出会った時と変わらない勝ち気な瞳をヒソカに向けている。


「マチ、ボクを応援しに来てくれたのかい?」


バンジーガムで辛うじてくっ付いている右手を壁にトンと当てて、自分の身体の影にすっぽりと入ったマチに視線を落とすと、マチは「まさか」と言い捨て身体を離す。邪険にされるのはこれで何度目だろうか。ヒソカが苦笑いをすると、マチはなんか文句でもあるのと言いたげな様子で片眉を上げた。


「キミは、相変わらずだね」
「は?……何言ってんの、相変わらずなのはアンタでしょ。」


彼女は変わらない。結局、ヒソカが仕掛けた数多のラブゲームが成功することは一度としてなく、彼女はあの日から変わらず胸の奥に彼への想いを秘め続けている。誰にも穢すことのできないその不可侵の領域はヒソカを強烈に惹きつけ、そこに入り込みたいという欲望を湧き上がらせる。そう、この瞬間も――。

しかし、ヒソカが彼女の心に住む事も、瞳に映る事も決してない。彼女の心も瞳も全てが全て彼のものなのだ。


「堕ちてしまったのは、ボクの方なのかもしれない」


既に連絡通路からホールの方へと向かっている彼女の背中に向かって呟くと、その声にマチが振り返り「なんか言った?」と言いたげな瞳を向ける。昔と変わらない強い瞳だ。

そうだ、念糸縫合の後、マチを食事に誘おう。マチのことだからどうせ食事に誘ってもむげもなく断るのだろうけれど。

ヒソカはふっと頬を緩め、カツンとヒールを鳴らして歩き出した。闘技場から続く細い通路の中で甲高い靴の音が乱反射して、明るい出口にいるマチの方へと飛んでいった。








マチを落とそうとちょっかいを出し始めたはずなのに、いつの間にかドツボにハマってしまったヒソカとか良いですね。

夢サイトなのに夢関係ない小説は良いのか!?という葛藤の末、萌が勝ってアップするに至ったシリーズです。片思いのヒソマチクロに凄く萌えるんですけど、同志様っていらっしゃるものなんですかね!?めっちゃときめくんですけど同志様いますか!?もし居たら管理人まで私もすきだよって一言伝えてくれると嬉しいッス!




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