くろちゃん!4
「それで、今までどこで何してたんだ」
「どうせどこかの洞穴で1人で隠れていたんでしょう。この村の皆に相手にされなくていじけていたんじゃないですか」
二人に村に強制帰還させられてから、シハの家の広い客間に通され、無理やりソファーに座らされると、立ったままの二人に見下ろされながら問いただされた。険しい顔の二人囲まれ、質問責めにされるが、感情の消え失せた僕の耳にはもう何も届かなかった。
「っち、なんとか言ったらどうなんだよ!俺らが今までどんなに心配したか…っ」
シハは声を荒げて怒鳴ったが、急にハッとしたように言葉を詰まらせた。心配…?なにに心配するというんだ。その単語に少し引っかかったが、心を閉ざした今では深く掘り下げる気にもならなかった。
「シハ、何を言ってるんですか、心配だなんて。私はただこの不気味な黒耳が目の届かないところで不吉なことをもたらさないか心配だっただけですよ。」
蔑むような目でカイルは僕を睨みつけた。どうせそんなところだと思っていた。この二人があんな辺鄙なところをうろうろしてたのはおかしかったから。
「そんな黒耳を持つお前が虎族にいることが周りに知られると、虎族の威厳に関わるからな。いいか、もう絶対にこの村から出るんじゃないぞ。今度こんなことがあったら牢屋に縛り付けて自由にできなくするからな。」
シハは僕に顔を近づけて威圧するように言った。だが、もう何も感じなかった。どうせこの村に帰ってきた以上、牢屋に繋がれているようなものなのだから。
そのあともしばらくグチグチと嫌味を言われ、たくさんの言いつけを守るように言われた。その間、僕は窓の外を見ていた。
今日は雪が降りそうなくらい寒い日だった。
こんな日にあの隙間風が吹き込む納屋で夜を明かしたりしたらとうとう死ぬかもな、なんて他人事のように考えていた。
「おい、どこへ行く」
鬱憤も晴らしたようで嫌味の攻撃が終わると、僕は当然のように席を立ち、あの納屋へ向かおうとした。
すると、少し焦ったような顔をしたシハが僕の腕を掴んで引き止めた。
「…帰ります。」
「どこにだ」
「村の隅の納屋に。」
当然のように言うとシハは少し言葉を選ぶように目を泳がせた。
「今日ぐらいはここに居させてやる。しばらく飲まず食わずだっただろうし、ウチで飯を食わせてやるよ。まあ次期族長だからこれぐらいは当然のことだ。勘違いするなよ。」
そんなことを言い出すのは少し意外だった。でもどうせ僕をいびって楽しむつもりであるのは明白で、僕は掴まれた腕を振り払って外に出た。
「っおい、」
「待ちなさい!」
二人の声が聞こえたが、僕は一人になりたかった。
納屋に行くとあの二人にまた捕まってしまうような気がしたので、村の外れをとぼとぼと歩いていた。
空はどんよりとしていて、冷たい風が頬を撫でる。震えながら、これからのことを考えていた。
黒豹族のみんなに会いたい。
テサンに会いたい。
みんなともっとしたいことがたくさんあったのに。
テサンにもっと伝えたいことがたくさんあったのに。
こんな突然の別れが来るなんて思っていなかった。でも、これが僕にとっての日常で、あの幸せな日々が非日常だったんだ。
テサンのことを考えると、涙が出そうだった。僕は、その場にうずくまって、必死に涙を止めようとしたが、大粒の涙が頬をつたった。
「っ、てさん、てさん…」
泣きながら会いたい人の名前を呟いた。
「っはあ、やっぱりここにいたのか」
思い焦がれていた人の声が頭上から降ってきた。何かの間違いだろうと思ったが期待せずにはいられない。ゆっくりと顔を上げようとしたら、その前に体を包み込まれる。
「心配した、帰ってこないから。あの川のあたりに虎族の痕跡があったから虎族に見つかったんだと思って…追ってきた。」
そこにあったのはテサンの切羽詰まったような、でも優しい顔だった。
状況を理解すると、僕は大声で泣きながらテサンに抱きついた。
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