入門

どうしてこんなことになったのかは思い出したくもない。
薬物依存の母親とアル中の父親が積み重ねた借金が、俺に降りかかってきたというだけだ。
消費者金融から上限まで借りた金が返せなくなった挙句に両親が手を出したのは闇金と呼ばれる悪徳金融業者であった。
当然法外な利率の利息を返せるはずもなく、借金はもはや個人に返せるレベルを超えていた。
両親は追い詰められ、果てに国外逃亡した。
当時高校卒業を控えた俺1人を残して。



暴力団の事務所に半ば拉致のような形で連れ去られ、組員の一人から両親の逃亡を知らされ、俺は死を覚悟した。
怖い面構えの男たちに囲まれながらも、俺はあまりに冷静だった。
今までも、両親のせいであらゆるトラブルに巻き込まれてきた。
借金を返すために必死にバイトをしたり、危ない仕事に片足突っ込んだり。闇金の取り立て業者に脅されたり。母親の麻薬取引現場に止めに入ってボコボコにされたり。
ろくな死に方をしないだろうことはわかっていた。むしろ、この世の非情さから抜け出せるという事実に喜びを感じた。


だが、男たちの中のトップであろう、黒髪を後ろに流した長身の男から放たれた言葉は、想像したものではなかった。

「お前、俺の舎弟になれ」


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