奇襲
異変に気づいたのは、入浴が済んでからだった。部屋の前にじっと立っていた向野さんの影がなくなっている。
トイレにでも行ったのだろうかと不思議に思っていると、突然部屋に数人の男がなだれ込んできた。
「え、なに、」
疑問を投げかける前に、床に押さえつけられる。
顔を見ると、近藤組の幹部たちだった。
No.3からNo.6までの四人が勢ぞろいしているようだった。
「ちょ、どうしたんですか、急に」
押さえつけられながらも、こんなことをする理由について思考を巡らせる。彼らは組長派の人間で、組長にたてつく理由がない。
それに、向野さんがいないのは、おそらくこいつらの仕業だろう。
向野さんは無事なのだろうか、様々な疑問が頭を駆け巡る。
「ははっ、向野には眠ってもらったよ、
流石の大男も、後ろからスタンガンじゃどうしようもないようだな。」
なるほど、これはかなり計画的な犯行らしい。よっぽど俺のことが気に入らなかったのだろうか。
まあ、無理もないだろうな、入って3年と少しの若造が、急に組長の側近になって、しかもきっかけが色仕掛けだなんて。
この幹部たちは、あの田嶋さんに手放された現場にいたものたちだ。実際にそんな光景をありありと見せられて、納得できるはずもないよな。
田嶋さんを殺すつもりが、結局田嶋さんにはNo.2の座を奪われ、側近の座は俺に奪われたんだからな。
「俺が憎いのはわかりますが、組長に知られたら、あなたたち終わりますよ。」
「うるさい、黙ってろ!!!」
俺があまりにも冷静なのが気に入らないらしく、4人はかなりいらだっている。
「今なら組長に何も言わないでいてあげますよ。ほら、はやく手を離してください。」
「うるさいって言ってるだろ!!!」
そう言いながら、用意していた手錠で手を後ろ手に拘束される。
おいおい、俺にここまでしなくても、こんな細い腕で抵抗できるわけないだろう。
相手は腐ってもヤクザの幹部。ガタイはよく、長身だ。もう俺はとっくに抵抗という選択肢は捨てた。
「分かったから、袋叩きにでもなんでもしてくれ。痛いのには慣れてるからな。」
諦めた雰囲気でそう言い放ったが、彼らはぽかんとしていた。
「はっ、何勘違いしてんだよ、お前みたいなのぼこったって何も出てこねーだろ。」
「俺らはな、あの日からずっとこの日を待ってたんだよ。」
やはり、計画的な犯行らしいが、それでは何をするというのだ、と問いかけようとしたところで、1人がこう言った。
「お前のこと、ぐちゃぐちゃにしてやりたかったんだよ。お前が組長のくわえてエロい顔するの晒してからよぉ。」
どうやら、組長の心配は、間違っていなかったようである。
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