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▽受容の条件【翔の場合】2-1

 翔は昼休みの時間潰しによく図書室を利用する。それは翔が読書家だからではなく、教室よりずっと人が少なく静かだという理由でだ。そこでなら静寂が遵守され、いらぬ事をしなければ他人からの干渉を受けずに済む。コミュニケーションを取りたくない人間からしたら格好の居場所だ。人の気配を近くに感じても、普段のように極端に神経を張り詰める必要もない。授業や課題のある時にしか縁が無かった空間が、今や校内で一番心の休まる場所になろうとは、翔もほんの数ヶ月前まで思いもしなかったことだ。
 今日も休み時間が終わるまで、本を開くこともせず、端の席でただ呆っと過ごすことになるだろう。すっかり習慣と化した予定を頭に浮かべながら、図書室へ向かう途中の事だった。


追記
2012/06/12 02:25

▽eoat ss

前のつづき

「二人とも、夏休みの宿題は終わったのか?」
夏休み終了まであと一週間となったその日、亮は二人にそう尋ねた。毎年ギリギリになってから始める翔と、新学期が始まってから悲惨な状況に陥っている十代を見兼ねてか、今年の亮は頻繁に声を掛けていた。だがその忠告の甲斐なく、一週間を切っても課題がほとんど終わっていない二人に痺れを切らし、とうとう亮は彼らの自主性に任せることを諦めた。
「今年こそは絶対に夏休み中に課題を終わらせろ。終わるまでは外出禁止だ」
「………はい?」
「えっ、何スか、それ――」
やきもきしていた亮と違い、それは二人からすれば何の前触れもない発言であり、理解するのに間が空いた。その突然の宣言に、二人は大いに戸惑った。
「外出禁止って、厳し過ぎだと思うッスけど……」
「なんか横暴じゃないか?」
「俺は早く終わらせた方が良いと、今まで何回も言ったはずだ。なのにこの様では、厳しくせざるをえないだろう。大体この課題の量を見て、遊びに出る余裕があるとお前達は思っているのか?」
そんな僅かな不満を漏らすことすら許さないのか、亮は口を挟む間も与えず言葉を返した。そして止めと言わんばかりに、彼らがなすべき課題を二人の目の前に突き付ける。亮に見せるよう言われ、今ここにある十代の課題は見事に真っさらで、翔の方はというと、手を付けた形跡が見られはしても進んでいるとは言えず、この程度では十代と五十歩百歩だ。亮から受けた非の打ちようのない正論に、二人は罰が悪そうに言葉を摘んだ。そんな二人の様子を見遣って小さな溜息をつくと、亮は改めて二人の課題の内容をさらった。一定のペースで紙が捲られる音が響く間、手持ちぶさたになりながらも何となく会話ができるような雰囲気になかった二人は、亮が話すまで沈黙を守っていた。
「――これなら朝から晩まで集中して真面目に取り組めば、一週間もかからない。ちゃんと今日から始めるんだ。いいな」
「はーい」
「うぃーっす」
調子よく返事をする二人に若干不安を覚えながらも、亮はそれ以上念を押すことはしなかった。高校入試の際に二人の勉強を見ていたのは亮だ。そして今の二人の成績も彼はしっかりと把握していた。課題内容に二人の実力を加味して所要時間を概算し、二人ならおそらく多く見積もっても四日程度で全て消化できるだろうと亮は目算した。決して課題が難しかったり多い訳ではない。夏休みの始め頃、明日香達の話題に上がっていた特進科の課題内容に比べたら、こんなものは雀の涙でしかない。後に残せば一層面倒になると理解しているはずなのに、何故二人はさっさと終わらせようとしないのか。嫌ならさっさと片付けてしまえばいいのだ。課題の類が出ると、それを真っ先に終わらせてきた亮には、嫌なことは後回しという心理が到底理解できなかった。

三人がそんなやり取りをしてから、あっという間に四日が経った。
そして迎えた今朝の事だ。翔はレポートに使う新聞記事を探すため、数日分の新聞を手にリビングへとやってきた。新聞を広げるなら自分の部屋より広いリビングの方が都合がいいと考えたらしい。仕事に出る前にその様子を見かけた亮が、翔に課題の進捗状況を聞くのも当然の流れだった。
「課題は終わりそうか?」
「うん。このレポートで全部」
「なら安心して残りの夏休みを過ごせるな」
「ううっ……耳に痛い」
例年の有様を知る亮から出る皮肉に、翔は苦笑いするしかない。そんな翔に、亮は今日まだ顔を見ていない人物の話題を出した。
「十代は起きてないのか?」
「さぁ、まだじゃないかな」
床の邪魔にならない場所に新聞を広げながら、翔は答えた。もし起きていたら、十代なら朝食に有り付こうと真っ先にリビングへとやってくる。それがまだないのなら、寝ている可能性が高い。噂をすれば、どこかの部屋が開く音がした。
「はよ」
「おはよー、アニキ」
「おはよう」
軽い足音と共に現れた十代の挨拶に、翔は視線を新聞に向けたまま答える。亮も十代に答えた後、やはり当然の流れで彼に尋ねた。
「十代の方も課題は捗っているか?」
外出禁止令まで出して彼らに干渉した事に、亮には多少の自省の念があった。こだわる理由があったとはいえ、いくらなんでもやりすぎだったかもしれない。そう反省する亮だったが、十代の不審な対応にその認識を改めた。
「………ぁ、ああ。まぁ、その……あの……」
「……十代?」
「全然やってないよ」
「あっ、バカ! 言うなって!」
怪しげに逡巡する十代の見苦しさを断ち切るかのように、翔がズバッと切り捨てた。
それを聞いた亮の様子がその後どうであったか、推し量るまでもなく容易に想像がつくだろう。


もうちょい続く


2012/01/31 15:35

▽eoat ss

夏休みが八月いっぱいだったのも今は昔。八月末から始まる新学期を三日後に控えた今日、十代と翔は二人でリビングにあるテーブルを陣取っていた。テーブルの上には様々なプリントやノート、筆記用具等が散乱している。それは夏休みの終盤に学生のいる家庭の多くで見られるだろうお馴染みの光景。彼らは今まさしく、夏休みの宿題におわれていた。開け放たれた窓から降り注ぐ蝉時雨と扇風機の回る音が響く中、作業を続ける二人の間に会話はない。
もう夕方に差し掛かるというのに、一向に和らぐ気配を見せない蒸し暑さに翔は辟易した。ふと室温計に目をやると、気温は三十度に限りなく近く、湿度は八十を越えていた。通りでいつまで経っても汗が肌にまとわりつく訳だ。我が家は普段から室温三十度以上を基準にエアコンを稼働しているのだが、この湿度ならそれを律儀に守らずともよかったんじゃないかと翔は若干後悔した。だからといって、既に暑さの峠を過ぎた今から点けるというのもなんだか今更だ。今やっている新聞切り抜きのレポートを終わらせれば、翔の果たすべき課題は全て終わる。その解放感たるや、この程度の暑さも吹っ飛ぶだろうことを期待して、翔はシャーペンを持つ手をせっせと動かした。こんな猶予をもって新学期を迎えることができるなんて、もしかして初めてじゃないだろうかと翔は例年の己を省みる。
一方、定期テスト前であっても教科書をまともに見返しすらしない十代も、驚異の集中力をもって課題に取り組んでいた。翔が知る限り、十代は夏休みの課題を夏休み中に終わらせた事がない。毎年新学期が始まる前日なってから始めるため、提出する時間ギリギリまで粘って意地でも間に合わせるか、間に合わずに後から提出するかだ。課題を提出しようという意思がある分、踏み倒そうという輩よりマシなのだろうが、そんな風に急いで取り繕った課題の内容がまともであるはずがない。当然評価は低く、先生によっては再提出するハメになる。そして十代の身内同然である翔が必然的に彼を手伝う羽目になり、新学期早々二人して忙しなくなるのだ。翔も再提出をくらった事があるが、十代ほど頻繁ではない。もう十代の自業自得に巻き込まれるのは御免被りたい。そんな翔の願いが届いたのか、あの十代が、夏休み終了三日前から課題に取り掛かる事について如何なものかというのはこの際別として、課題を始めているという事実。
これは翔の願いが天に届いたからでも、十代が自ら悪しき習慣を断ち切ろうと立ち上がったからでもない。さすがの十代も、今朝の亮から放たれた無言の圧力によほど堪えたらしい。
事は四日前に遡る。


ちょっと続く


2011/12/09 14:40

▽eoat sss

(吹雪と亮)
「世の中不景気不景気言ってるけど、そんなのこっちじゃどこ吹く風だね。相変わらず繁盛してるよ。むしろ活発化してますって感じ?」
「より取り見取りだな」
「みんな切羽詰まってるんだろうなぁ。好景気な時はもちろん羽振りが良いし、表が平和なときも平和な時で不穏な輩が頑張って企んでるし、逆にヤバ気な時もその時でなおさらだし」
「どちらにしろこの世界が在る限り、金に困ることはないな」
「マネー、なんちゃって」
「…お前、最近何かあったか?」
「マジに心配そうな目で僕を見るな!」


2011/11/26 17:42

▽eoat sss

(モクバと磯野)
海馬CO.社長室監視カメラ3LIVE
『遊戯よ、この至高の光が貴様の目に映る最期の光景であることを光栄に思え! そしてこの俺に楯突いた己の愚かさを悔いながら、闇の世界を永遠に味わうがいい!』
『ハンッ! そんな脆弱な光なんざ、日向ぼっこにも劣るぜ! これでよく自分で『至高』だなどと仰々しく言えるな! 貴様は言い回しが一々大袈裟なんだよ!』


「うーん…大袈裟なのは『遊戯』も大差ないと思うんだけど。しかも二人とも自覚なしに素で言ってるから質が悪いというか」
「モ、モクバ様…止めなくてもよろしいので?」
「あー磯野は二人がバトってる所見るの初めてだっけ? いいのいいの。いつもの事だから。それに割り込んだらこっちが危ないんだぜぃ。本当にヤバくなったら遊戯が止めにくるからさ」
「…社長室が時折半壊する理由をよく理解いたしました」
「いい加減社長室でおっぱじめるのは止めてって言ってるのになぁ。兄サマも『遊戯』相手じゃ別人みたいに挑発に乗っちゃうし」
「遊戯に協力を仰がれないのですか?」
「とっくにやってるよ。これでも前に比べたら頻繁にやり合うことも少なくなったし、損壊も軽くなったんだ」
「それでもこれだけの規模になるのですね」
「俺と遊戯がいるから半壊で済んでるんだぜぃ。でも俺たちが本気で怒れば案外二人ともすぐ止めると思うんだ。結局俺も遊戯も身内に甘いってことだよなぁ」
「………」


2011/09/29 23:44

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