「…………イッシュって地方は知ってるよな?」

「聞いたことくらいは」

「そこで、さっきも言ったとおりポケモンの解放をうたう集団が現れたんだ。それがプラズマ団、まぁこっちの地方で言うロケット団みたいなもんかな」


静かに語り始めるグリーンさんの声が、2人しかいない空間に響きわたってゆく。
ロケット団、その単語に少しばかり反応してしまったが、幸いにも目の前の人は気づいてないようだった。少しその事実に安堵し、胸をなで下ろす。


「プラズマ団は解放と称して数多のトレーナーから数多くのポケモンを奪っていった。人を言葉巧みに操ってポケモンを手放させたり、力ずくだったり」

「……その、解放と言うのはなんなんだ?」

「解放っていうのはなんつーか、プラズマ団の思想だな。ポケモンと人は平等にあるべきで、モンスターボールなどに入れておくのは可哀想。俺からすればなんじゃそらって話しなんだけど、」

「……プラズマ団は、その思想のもと集った集団」

「そう。……まぁあくまで表向きは、だけどな」

「表向き?」


表向きとはいったいどういうことだ。
グリーンさんはそこまで言うといったん言葉を区切り、座っている椅子の背もたれにもたれかかった。キシリ、と木製の家具の軋む音が聞こえる。
俺は先ほど用意された緑茶を一口だけ口に含み、次の言葉が発せられるのを待つ。


「その解放という思想は建て前で、本当は人々から奪い上げたポケモンを自分たちだけで使えるよう段取りをくんでいたらしい」

「…………それは、Nがやっていたのか?」

「いや、父親だな」

「え、」

「そもそも、今眠りこけてる奴はその父親に利用されていたと言ったほうが正しい」

「…………、」



ぐわん、と自分の頭が回り警報が鳴り響く。
これ以上踏み入ってはいけない、蘇ってしまう。
……あぁ、どうしてこんなにも、。


「…………」

「大丈夫か?」

「……いや……平気だ」

「そうには見えねえけど」

「本当に大丈夫だ。……ただ、一つ聞いてもいいか」


そう言葉を投げかけた後、俺はグリーンさんの顔を真っ直ぐに見据えた。そんな俺を見たその人は、背もたれにもたれかかっていた自分の体を元の位置へ戻し真剣な表情に。たぶんこれは続きを促しているのだろう。
さっきまでと同様、いや更に深く張り詰めた空気がこの場を満たしていく。


「なぜ……なぜあんたがこれだけの情報を持っている?」

「…………」


これはただ単純に自分の疑問。
いくらなんでもこの人は情報を持ちすぎている気がするのだ。
プラズマ団の本当の目的だとか、本当は父親が黒幕だったとか、そんな情報イッシュの人たちでさえあまり知り得ないのではないか?
警察のハンサムという奴から聞いた可能性も考えられるが、それも違う気がする。いくらなんでもここまで話しはしないだろう。
そう悶々と考え込んでいた俺に向かい、グリーンさんは小さく笑った。本当に微かに、小さく、綺麗に。



「グリーン、さん?」