きの言葉
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「土下座しろ」

休日に珍しく俺の部屋を訪ねてきた先輩は、可愛い顔でまったく可愛くないことを言いのけた。
今日1日何をして過ごそうかとベッドに寝転んでいた俺は突然のことにポカンと口を開けて。
あれ、俺またなんかやっちゃったっけと一瞬にして思考を張り巡らせたが特に思いあたらない。だいたいここ最近ポケヴッドの撮影に忙しくて先輩とはまったく会ってなかったのだ。やりたくったってできない。

「……先輩いきなりどうしたんですか」
「うっせーな俺がしろっつったら黙ってすればいいんだよ殴るぞ」
「突然きてその言い草!?」

いつものように眉間に深々とシワを寄せた先輩は、黙ってこちらへと一歩踏み出した。
俺はそれを見てとりあえず体を起こし先輩へと向き直る。それによりギシリ、とベッドが軋んだ音が2人だけの空間に響いた。

「……トウヤ先輩?」
「…………」

まだ寝ぐせがついているであろう自分の髪をクシャクシャとかきながら笑う。
しかし相手からの反応はまったくなく。相変わらず不機嫌そうな顔で俺の前に突っ立っていた。まぁ不機嫌なのはいつもなんだけど。
これはちょっとまずいかもしれない。

「どうしたんですか?俺なにかしましたか?」
「いや別に何もしてねえよ」
「……はい?」
「なんかムカつくんだよお前の顔見てるとだから一発殴らせろ」
「理不尽!」

ていうか今日訪ねてきたのはあんたの方だろ!と言いそうになって慌てて口を閉じる。危ない危ない、もっと機嫌損ねられるところだった。

「まぁそんな先輩も好きで、」

言いかけた瞬間に風を切り飛んできた拳。俺は体をひねりすんでのところでそれを避け、一呼吸おいてからゴクリと喉をならした。冷たい汗が首をつたう。
……ちょ、今本気で殴ろうとしてたよな!?

「い、いやいやいきなり何!?なんなんですか!?」
「すきとか軽々しく言ってんじゃねえよ」
「は、はぁ?」
「どうせお前は、」
「うん?」
「誰にだってそういうこと軽々しく言うんだよなクソが」
「…………は?」

ハッ、と鼻で笑い悪人面をしている先輩の言葉に、俺はしばし呆然とする。
いったいこの人はなにを言ってるんだ?
相変わらずの突拍子のない言葉に思考が少し混乱する。

「え、俺トウヤ先輩以外の人にそんなこと言った覚えないんですけど」
「へぇ覚えてねぇんだな。まぁお前の場合それが自然体だからいちいち覚えてなくても当たり前ですよね」
「なんで敬語!?ちょ、なんかの誤解ですってだいたい俺本当に言った覚えな……。……あ、」

そこまで言って、はたと言葉を止める。目の前にいる先輩を一度見つめてから。
もしかしてこの人が言ってることって、。

「昨日の……テレビ放送された映画のシーン……」
「……は?」
「あの女優とのシーンですか?」
「…………」

ぎゅ、とその言葉に反応するように握りしめられた拳を見てああ正解か、と1人思う。
1ヶ月前くらいにポケヴッドで撮影され公開された映画。それがあまりにも反響が大きかったため普通のテレビでも放送することになったらしい。その放送日が昨日だったのだ。
監督に言われてたけどすっかり忘れていた。
と言うより。

「先輩見てくれたんですか!?いっつもチケットあげても絶対見るの嫌だって言うのに!」
「……いや違えよ。昨日はたまたまチャンネル回した時にそれになっただけだ」
「でも見てくれたんですよね?」
「……見た、けど」
「そっか、見てくれたんだ……」

そしてその女優とのあれやこれやを見て今日乗り込んできた、と。不機嫌そうな顔をして、嫉妬をして?
演技だと分かっているのに。
そこまで考え、俺は目の前でさっきから不自然に目線を逸らしている人に向かい手を伸ばす。そして自分より一回りくらい小さな体を力いっぱい抱きしめた。
ああもう幸せ。力加減なんて今日はできないですよ。
いきなりすぎて反応できなかったのか、先輩はただ目を白黒させただけだった。

「先ぱ痛ぁっ!」
「調子乗んな」
「す、すいません」

まぁもちろんいつものようにすぐ暴力がきたのだが。蹴られて痛むすねあたりをさすり、俺の手が緩むと同時に一気に離れた距離を見て苦笑する。
でも、もう一度。
距離をつめて力なく垂れ下がっている先輩の左手を優しく掴む。

「…………」

ああくそ緊張するな。
どんなにきれいな女の人相手の撮影だって、こんなに緊張したことがないと言うのに。
俺は左手をそのままに腰を折りその場へ跪いた。目の前でポカンと口を開けている人に対し優しく微笑んで。
うん、確かこんな感じ。

「『私はあなたを愛しています』」
「……は?」
「と、昨日……つうか1ヶ月前あたりにあの人に言いましたが。」
「そうだな」
「先輩にはそんな言葉じゃ足りないくらいなんですよね。愛してるなんてレベル超えてますし四六時中一緒にいたいどころかできれば他の誰とも喋らないように監「黙れ」すいません調子乗りました」

殺気立った視線を寄越されたのですぐさま謝罪を入れる。
普通の人だったらドン引きどころかもう二度と近づいてくれないような危険なワードを織り交ぜても先輩はたったそれだけ。きっとあまりにも毎回言っているから受け流す癖がついてしまったのだろう。それはそれで問題なのだが。

「だからどうやってこれを伝えればいいか悩むんですけど……」
「別に伝えなくてもいいんだけど」
「でもそれでも伝えたいです。本気で大切で大好きですから」
「今度はどこの言葉だ」
「台詞じゃないです。ていうか台本なんかあったらこんなみっともなく緊張しません」
「……あっそう」
「……俺は、トウヤ先輩を愛しています」

演じる役じゃなくて、俺自身として。
そこまで言ってから握られたままの左手の甲に軽い口づけを落とす。
チラリと見た先輩は、なんかもう可哀想なくらい顔を真っ赤に染めて声にならない言葉をあげていた。口が開いては閉じてを繰り返す。
そんな様子を見て思わずいつもの人懐っこい笑顔とは違う種類の笑みを零す。

「はい、これで満足ですか?トウヤ先輩?」
「ししし死ねよもうお前はっ」
「えー、嫌ですぅ。俺先輩と一緒に生きていきたいですし」
「じゃあ永眠しろ」
「さっきと意味変わってないですよ!?」




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驚くほどクサすぎて吐きました。
これで付き合ってないんですこの人たち。
130321



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