先ほどの攻撃で傷ついた地面の上を歩き、ボクらの距離を埋めるようにと一歩一歩近づいてくるカレ。ピリピリと空気が痛いほどボクの頬を突き刺した。


「……おい、」


聞こえてきたのは、小さな声で2人にしか聞こえないように話すシルバーの声。


「……なんだい」

「お前、マサラタウンって知っているか?」

「まさ?」

「……知らないか」


ドンカラス、そらをとぶで連れて行ってくれ。宙に浮かぶ黒いポケモンに向かって言うとそのドンカラスと言うらしいポケモンは羽を羽ばたかせながらボクの足元へと着地した。
チラリとそれを一瞬だけ見てから、その真意を確かめる為ボクは口を開く。


「……どういう、ことだい?」

「マサラについたら、グリーンさんという人に助けを求めろ。なんにもないところだからすぐに分かる」

「……逃げろ、って、……言って、いるの?」

「勘違いするな、足手まといなだけだ」


ボクはドンカラスを一回見てから首を左右に振る。
大丈夫、まだ大丈夫。


「シルバーはボクを勘違いしている」


痛みに耐え急に饒舌に語り始めたボクをジトリとシルバーが見つめた。顔を向けずに目だけで見て、ボクらの視線が絡まり合う。



「ボクはお姫様なんかじゃないんだ。ちゃんと戦えるし、自分の力で未来を切り開いていける」



確かにトウヤのようにうまく戦うことはできないし、何かを護れるほど強くもないけれど、。


「……手持ちは」

「一匹だけ。……トウヤとの約束を破っちゃうことになるけど」


けど、きっとトウヤなら許してくれると思う。
そう思いカレを睨みつけると、困ったように笑い口を開いた。


「ええ、2対2ですか?困ったなぁ俺今日こいつしか連れてきてないんだけど。……てことで今回はもうパスします」

「は?」

「……え、」

「パスですよパス。俺、無謀だと分かっていることには立ち向かわない主義なんで」

「おい、おまえっ」

「赤髪さん、」


刹那、ザンッと近づいた影。声を荒げたシルバーのすぐ目の前、鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離でカレは微笑を浮かべていた。
シルバーの息をのむ音が聞こえる。


「偽善もけっこうですけど、中途半端な優しさはかえってなにかを傷つける結果になりますよ?」

「な、」

「じゃあ、また来ます」


一度こちらを見て無邪気に笑ったカレはひらりと身を翻し、すぐ目の前にある建物の影に消えてしまった。
しばらくしてシルバーが舌打ちをしたと思われる音が辺りに響く。


「……いったいなんなんだあいつ、なにがしたかったんだ」


ドンカラスとマニューラをボールに戻した後、いつもの不機嫌顔を更に歪めてこちらを見たシルバーはしかし、すぐに目を見開き驚いた表情に移り変わった。


「おい、大丈夫か」

「……?」


大丈夫だよ、そう言って笑おうとした次の瞬間視界が揺れた。ぐわんぐわんと吐きそうなくらい回る視界に堪えきれず膝から崩れ落ちる。頭が痛い、割れそうに。
え、なんで、いきなり、こんな、。


「おい!……なんでだ?生身で技を喰らいすぎた反動が?……いやでもいきなり、さっきまで……。チッ、とりあえず悪いがもう一度だドンカラス!」


痛い、痛いよ。
この目の前の人は何を言っているんだろう。なんでこんなに慌てているんだろう。なんでこんなところに人がいるんだろう。












――――あれ、ボク?僕?















「あの、ごめんなさい。君は……だれでしたっけ?」
















ちなみに僕はNっていうんだってげーちすがいってました。