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あの赤髪の言ったとおりにしばらく歩くと見えて来た川。決して少なくない人数の釣りのおじさんが、釣り竿を川にひたしているのが見える。穴場なのか。
そこにランクルスは水槽を斜めに傾けた。ポチャン、という音でコイキングが野生に戻ったのだと分かる。Nはその様子をしばし見つめた後、ハッとして口を開いた。


「あ、さっきの人たちにお礼言うの忘れていたよ」

「は?いいよんなもん頼んでねぇし。……それに、なんかあんま関わりたくねえ」

「酷いですね。僕はあなたを探していたんですよ!……正確にはシルバーがだけど」

「…………」


……お前は神出鬼没が特技か。
聞き覚えのある声に俺は隠す様子もなく舌打ちをする。やはりその声の主は先ほどのやつらで。
いつの間にか後ろに立っていたらしいそいつらを無視し歩き出そうとすると、目の前にたちはばかる羽が四本生えた……ポケモン?
俺に対し小さく威嚇している。


「……なにお前ら。なんのつもり」

「ダメだよトウヤ、礼儀をわきまえたまえ。キミたちさっきはトモダチを救ってくれてありがとう!」

「ちょ、黙れ電波」


お前にはこのピリピリとした空気が伝わらないのか。
バックに花が散らばりそうな満面の笑みのNを軽く叩く。
目の前の少年は顔と手を左右にブンブン振り口を開いた。


「いえいえ、こっちが勝手にやった事なのでありがとうなんてそんな……」

「でも救ってくれた事実には変わりないよ。トウヤなんて無視だったし」


悪かったな。
俺は眉間にしわをよせNを見る。ふと、Nと話している少年と目が合った。


「あの……お願いがあるんです」

「…………なに」


真っ直ぐにこちらを見据えたその少年の瞳は、とてもきれいだと思った。


「僕とポケモンバトルしてください!」

「やだ」

「…………え?」

「いやだから、やだ」

「…………ちょ、すいません。待っててください」


ちょっとシルバー!まさかのバトル受けてくれないって!
そう叫びながら慌てて後ろにいる赤髪に飛びつく少年。本当になんなんだお前ら。俺はイーブイをNに返してからランクルスをボールに戻した。


「だいたいお前ら誰だよ、いきなりなんなの」


嫌な顔を隠そうともせずに問うた俺の質問に、目の前の少年は嫌な顔ひとつせずにヘラリと笑い言った。


「あ、そうですよね!申し遅れました、僕はヒビキって言います。こっちの目つき悪いのはシルバー」

「…………」


シルバーと呼ばれた赤髪の少年は、不機嫌そうにこちらを見る。
……なるほど確かに目つき悪いな。


「まるでトウヤみたいだね!」

「殴るぞ電波……って前もこんなやりとりなかった?」


うふふあははとイーブイとじゃれ合いながら言うNは見てると本当に腹が立つ。
俺はヒビキと言うらしい少年に向き直り、帽子を深くかぶった。


「ヒビキ……くんだっけ?俺はとりあえずバトルはしない」

「ヒビキでいいです。それはなんでですか?」

「今はめんどくさいからに決まってんだろ」

「……苦しいから、じゃなくて?」

「は?」


思わずキョトンとしてしまった俺の顔を見て、ヒビキは小さくなにかを呟いた。