「そっか、自分でも気づいてないんだ……」


悲しげにヒビキは目を伏せる。憐れんでいるのか、もしくは。
なぜだか俺はその態度が無性に気にくわなかった。


「言いたいことがあるならハッキリ言えよ」

「…………」

「おい、」

「……あなたはポケモンバトルは好きですか?」


お前あの電波なみに人の話聞かないだろ。
質問ばかりのそいつを軽く睨みつけ、さてその質問にどう答えようかと首をかしげる。
ふとヒビキの後ろにいる赤髪と目があったがすぐにそらされてしまった。


「……分かんねぇよそんなん。つかなんでそれをお前に言わなきゃいけないわけ?」

「それは……」

「別に俺とお前は何の関係もないだろ」

「……僕は、あなたを救いたいんです」


真っ直ぐにこちらを見据えたヒビキはそう言い放った。
いや、見ず知らずのやつにいきなり救うだのなんだの言われても困るんだけど。
俺の後ろでイーブイと遊んでいたNの声がピタリと止まる。誰も言葉を発することなく広がる静寂はしばらくの間続いて。
それを破ったのは俺が放った声だった。


「救うってなにをだよ」

「あなたは先週行われたバトル大会に参加しましたよね?僕はその様子をテレビで見ていました」

「…………」

「それを見て苦しそうに戦う姿に気づいたんです。そんなふうに戦う人見るの初めてだったし……なんでか分からないけど、あなたに会いたくなりました」

「そんなのお前が勝手に決めつけているだけだ」


バカバカしいと鼻をならした俺に対して眉を寄せた赤髪。ヒビキは唇を噛み締めもう一度口を開いた。


「じゃああなたは何を思ってバトルをしているんですか。それだけ教えてください」

「……嫌だ。何回も言うが俺とお前はまったく関係ねぇんだ。お前に教えてやる筋合いはない」

「だから、それは、」

「あなたを救い出したいんです、ってか?……余計なお世話なんだよ」



偉そうなことを言って、結局なにもできないくせに。



「俺が苦しんでいるか苦しんでないかなんて、俺にしか分からないだろ」

「…………」

「……笑えばいいわけ?」


口を閉じ黙り込んでしまったヒビキに対して俺はさらに追い討ちをかける。
あれ、なんでこんなに苛ついてんだ俺は。
さすがに俺も言っていいことといけないことの区別くらいつく。けど、分かっているけれど喉元から出る言葉を止められることはできなかった。


「お前みたいに、ヘラヘラ笑って周りに媚びを売っていればいいわけ?」

「!」

「お前の価値観を俺に押しつけんな。俺は「いい加減に黙れ」」


じゃきん、と俺の喉元に突きつけられるツメ。
いつの間に出現したのか、俺の前には水色のワニみたいなポケモンがいた。背中には赤色のおびれのようなものがついている。
……いや出現したんじゃない。これは、。


「なんのつもりだ」


俺は後ろにいる赤髪を睨みつける。モンスターボールを片手に持ったそいつは、俺と同じように俺を鋭く睨みつけていた。


「これ以上こいつを悪く言うつもりなら俺は容赦しない」

「シルバー、やめて」

「……なぜだ」

「ランクルス、サイコキネシス」

「「!」」


その言葉と同時にボールから出したランクルスは水色のワニみたいなポケモンを宙に持ち上げる。そして鈍い衝撃音とともに勢いよく地面に叩きつけた。
赤髪は慌ててその手持ちに駆け寄り、ヒビキは俺に向かい大声で叫ぶ。


「オーダイル!」

「なんてことをするんですか!今のはあんまりだ!」

「はぁ?先に俺に仕掛けてきたのはそっちだろ」


冷めた目で見つめると、ヒビキは真顔になる。今までの笑顔とか、驚いた顔とか、いろんな表情を全て捨ててスッと無表情になった。