俺は勢いよくその声がした方向、後方を振り向く。
そこには人懐っこい笑みを浮かべた少年。人畜無害そうなそいつの後ろには背中から炎を吹き上げる大きなポケモンがいた。
そのポケモンに何かを呟き頭をなでる。
そしてもう少し後ろに下がったところには目つきの悪い赤髪の少年が腕を組み立っていた。高層ビルの壁に背を預けたそいつの肩にとまっている、羽を四本生やした物体はポケモンなのだろうか。



なんだろう、こいつら。
ただのトレーナー……では無い気がする。身にまとっているオーラが違うんだ。
知らず知らずの内にNの前に立った俺はそいつらを睨みつける。
すると、1人の少年がケタケタと笑い口を開いた。


「やだなぁ、そんなに怖い顔しないでくださいよ。僕が用があるのは、今はその後ろのおじさんですから」


まぁ、あなたにも用はあるんですけどね。後でです。
笑顔から一変、目を細めて俺を見た少年はこちらに歩み寄る。思わず身構えた俺の耳に後ろから聞き慣れた声が入ってきた。


「大丈夫だよ、トウヤ。たぶん悪い人たちじゃない」


俺たちの横を通り過ぎ、先ほどの男の前に悠然と立つ少年。
さっきとは打って変わって真っ青なそいつは何かをモゴモゴと口にしていた。やっぱりさすがに感じたか、痛いほどの威圧感。


「最近増えているんですよね。コイキングだけじゃなく、他のポケモンも無理矢理捕まえて高額な値段で売りつける……そんな商売。しかも売れ残ったポケモンは廃棄処分」

「俺は違う。俺はちゃんと自分で捕まえて……」

「誰が捕まえたかなんて関係ない。本来、ポケモンの売り買いは全面的に禁止されてるんですよ?」



その意味、分かります?
ニコリと笑って言い放たれたその言葉を聞いた瞬間、勢いよく走り出した男。
少年はボールを取り出し宙に投げつける。中から出てきたのは……なにあれ。


「デンリュウ、でんじは!」


べしゃっと、逃げていたはずの男は地面に突っ伏した。
……おい、大丈夫なのかアレ。ポケモンの技って人に使っていいんだっけ。
げんなりと考えている俺とは違って、Nは気にした様子もなくコイキングの元へ駆け寄る。
お前ももうさすがだよな。


「トウヤトウヤ!」

「なんだよ」

「ボクは今からこの子を逃がしてあげようと思う。でもボクの力じゃ水槽が持ち上がらないんだ。手伝ってくれたまえ」

「なんで手伝ってもらうのにそんな偉そうなんだテメェ」


いろいろ言いたい事はあったが、早くとせかすそいつがかなり煩い。なのでとりあえず俺はイーブイを抱きかかえてる手とは反対の手でモンスターボールを取り出した。


「ランクルス、悪いがその水槽をすぐ近くの川まで運んでくれ」


その言葉にフワリと水槽が持ち上がる。
俺はランクルスを一回なで、近くに川が無いかと辺りを見渡した。


「……川ならその道を真っ直ぐ進んだ左にある」


今度は赤髪の少年が口を開いた。ぶっきらぼうに、指差したその方向を俺は見る。


「おい、電波」

「分かってるよ。早く行こう!」


このコイキング、アリガトウって言ってるよ!
そうへにゃりと笑って言うそいつはとても幸せそうだ。
とりあえずいろいろ面倒な事を引き起こしたこいつは後で殴ろう、そう決め俺たちは歩き出した。