――――自称ポケモンと話せる電波バカと一緒だから



今、トウヤは何と言った?



「トウヤ!待って、トウヤ!!」


そんな私の声もむなしくトウヤは空の向こうへと消えていった。
心臓が煩い、足が震える、喉が痛い。
ヒュウヒュウと、荒い呼吸を繰り返しながらトウヤと叫ぶ私に異常を感じたのだろう。お母さんが私の腕を掴み焦った表情で言う。


「落ち着きなさい!いったいいきなりどうしたのよトウコ!?」

「お母さん、私……行かなきゃ」

「え?」


確信なんてない。けど、きっとトウヤの言っていた人は、。

脳裏に浮かぶはサヨナラと笑って消えた男。
異変に気づいて走った時には遅かった。伸ばした腕は虚しく宙を掴み、目の前でレシラムと共に落ちて行った。
違う、違うの。
あんな顔をさせたかったんじゃない。消えて欲しかったんじゃない。
私はただ、あなたを、。


「行かなきゃ、いっ……行か、なくちゃ……」


景色が、お母さんの顔が歪んで見えた。
あぁ、私いつの間にこんなに弱くなったんだっけ。
困惑した表情のまま、お母さんは私をぎゅっと抱きしめる。



「お母さん、私……」

「……大丈夫、分かってるわ」



目元から頬へ零れ落ちた雫を乱暴に擦る。

英雄などと呼ばれておきながら、本当に救いたかったものは何ひとつ救えなかった弱い私。
もう、後悔はしたくないの。








――――――








「……なにこの状況」


約束の場所へと来た俺は、今目の前でおこっている光景を見て眉をしかめた。

昨日と同じように、ライモンの遊園地にNは居た。しかし、違うことがただひとつ。ご機嫌そうに笑うNの周りには、人相の悪いいかつい男たちがいたのだ。
そこらへんでよく見かける暴走族のたぐいだろう、とても穏便な雰囲気ではない。周りの人たちは視線をあわさないようにして俺達を避けていた。
……そう、普通はそういう反応をするべきだろ。
なのになぜお前は幸せそうに微笑んでいる。お前本当はNじゃなくてMなんじゃねぇの。


「あ!トウヤじゃないか!ようやく来たね、君約束の時間から15分も遅れてるよ」

「…………」


その声とともに一斉に向けられる顔。やめてくれ、軽く気持ち悪い。
いったいなぜこんな状況になったのか、俺はイライラと目を瞑ると言う。


「どうしてこうなった。お前の返答によってはお前を殴る」

「それがね、君を待ってる最中にボクこの人たちにぶつかっちゃったんだ。その時にこの人の持ってるジュースが零れちゃってね、シミになってしまったんだよ」


ほら、と指差す先には、なるほど確かにべっしゃべしゃになってしまった高そうな服。弁償しなくちゃいけないんだけどボクお金持ってなくてね、そう言ってNは笑った。
……お前はめられたんじゃねぇの。


「で、なんでお前はそんなに嬉しそうなんだ?」

「え?あぁ、昔に読んだ本に書いてあったんだ。これは普通の人間の男性が喜ぶハーレム状態というものなのだろう?」

「そうか、お前バカだったんだな」


こんないかついハーレム絶対嫌だ。
男たちを無視して話し続けた事が気に食わなかったのか、1人の男が怒鳴る。
俺達が話し終わるまで怒鳴らないだなんて、なかなか空気読めるなお前。