逢い


「柔らかいなお前」


むにゅむにゅと、俺の膝の上に乗ったランクルスを伸ばしたり引っ張ったりする。案外柔らかいそれは手にフィットしてなかなか止められない。癖になるんだよな。
ランクルスは全力で嫌そうな顔をしてるが、まぁ無視しておこう。
ふと、手を止め窓の外を見た。春特有の温かい日差しはもう無く、辺りは薄暗くなり始め空には一番星。
そろそろか、と思うとため息が止まらない。


今日、ちょうど一年前に幼なじみと共に旅に出た姉が帰ってくる。


そう嬉しそうに話す母の顔を思い出し、またため息。


「……ノボリとクダリのとこ行こうかな」


そう思いソファーから腰を上げ、膝の上に乗っていたランクルスをボールへ戻す。
別に俺が居なくてもアイツはなんとも思わないだろう。そう結論づけながら、台所で料理を作っている母の前を通り過ぎた。


「トウヤ……」

「……え、」


俯きながら歩いていた俺はその声で顔を上げる。そこには、一年前と変わらない姉の姿。
いやいやいつの間に帰ってんだとか、一年ぶりなのに全然変わってねぇなぁはははとか、いろいろ言いたい事があったがそれらは言葉になって発せられる事は無かった。


「ト、トウコ?」

「……っう、……ひっ」


肩を震わせ泣いていたのだ。
あの姉が。バトル以外なんの取り柄もない俺と違って、なんだって出来たあの姉が。
子どものように、大粒の涙を零して、嗚咽をもらしながら泣きじゃくっていた。