御礼文
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共鳴運命。番外編


「いっだ!てめっこの茶色毛玉俺に噛みつきやがった」
「汚い手で触んじゃねーよクソがって言ってる」
「よし、今からその毛玉全部カッティングしてやるよ」
「なんでちょっとオシャレな言い方なんだい」

イーブイに乱暴なことはしないでくれたまえ、とNは素早く俺の手の中にいたイーブイを奪いとる。Nの膝の上に乗せられ頭を撫でられるイーブイは嬉しそう……とはお世辞でも言えないが俺の時よりはマシなのではないだろうか。
そう思いながら俺は自動販売機で買ったおいしいみずのフタを開ける。デパート最上階にある休憩所の椅子に腰掛けそれを飲む姿をNは隣から黙って見ていた。
今日も今日とて相変わらず俺たちはタマムシシティにくすぶっている。

「……なに見てんだよ」
「誰がお前のことなんか見るか自意識過剰、だって」
「お前じゃねえよNに言ったんだよこの毛玉が。お前こそ自意識過剰なんじゃねえの」
「トウヤ!イーブイに向かってなんて酷いことを言うんだい!」
「いや俺も結構酷いこと言われてたような気がするんだけど」

そう言いながらチラリとNの膝の上にいるイーブイを見るとそっぽを向かれた。なんてかわいくないやつ。
俺は先ほどおいしいみずを買った時に出たお釣りをNに渡す。

「……なんだいこれ」
「金だよ金。お前さっき俺が買ったときにいらないって言ってたけど本当は飲み物欲しいんだろ」
「……仕方ない、トウヤがそこまで言うなら買うことにするよ。本当はそうじゃないんだけど」
「お前金返せ」

思わず殴りたい衝動に駆られたが、Nがものすごく緩みきった顔をしてたのでその衝動は失せてしまった。俺も大人になったな、うん。
その様子をイーブイは左右に大きく尻尾を揺らしながら眺めていた。見た目だけは本当に愛らしい。

「じゃあボクちょっと買ってくるよ!トウヤ、それまでイーブイをよろしくね」
「は?」

それじゃあ、とNは嬉しそうに行ってしまった。行くと言っても自動販売機は数メートル先にあるので視界にはとらえられるが。
とりあえず俺は仕方なく残されたイーブイに向き直る。Nが座っていた場所にふてぶてしく座るそいつはなんか……あれだ。
お互いに向き合いしばしの沈黙。

「…………」
「…………」
「…………こんにちは」
「……ハッ」

うわ今思いっきり鼻で笑いやがったこいつ。というか鼻をならしやがった。
バカにされたとしか思えないイーブイのその様子を見て口元が引きつる。さすがにポケモンには乱暴な事はしない主義だから俺。

「おいお前さぁ、最近ちょっとNに甘やかされてるからって調子のってんじゃねーの」
「…………」

そう言ったとたんイーブイはぴょんっと俺の膝へ飛び乗りおいしいみずを持ってない方の手に歯を立てた。

「いって!……てめぇまた噛みつきやがったな」

じんじんと痛む手の平を抑え言う。イーブイの歯形がくっきりだ。目の前のそいつは特に悪びれる様子もなくご自慢の毛を揺らしながらこっちを見ていた。
いらっとする。見た目こんなにかわいいのに超いらっとする。
ふと聞こえるNの声。

「トウヤトウヤ!」
「あ、買ってきたのか」
「ううん、よく考えたらボク自動販売機の使い方が分からないんだ」
「……は、」
「ちなみにお金の使い方は分かるよ。ボクは計算が得意だからね」
「1×1は?」
「10?」
「バカだろお前」

絶対くると思ったよ、フリって言うらしいこれ。
呆れ顔でNを見るとそいつは一瞬キョトンとしたが、次の瞬間へにゃりと笑った。いやどこがおかしかったのか分からない。

「ボクの代わりに買ってきてくれたまえ」
「……なにがいい」
「サイコソーダ」
「へいへい」

言いたいことはたくさんあったが、ここで言い返しても長い戦いになるだけなのでとりあえず俺はNから小銭を受け取る。ちゃりん、という音とともに自分の手に小銭が帰ってきた。

「イーブイはミックスオレがいいってよ」
「なに、こいつのも買うの。しかも一番高いし」
「お前の金は俺の金だって」
「どこのジャイアンだ」

もういいかな。いい加減引きちぎってもいいかなその毛玉。



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引きちぎってみる



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