きっと君は気づかない
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まだしんしんと雪の降り積もる寒い日。
今日のぶんのジムの仕事はもう片付けたし、家に帰ったらこたつへあたろう。そして寝るんだ。
この間から忙しくて全く眠れていなかった俺は、そう決心しながら帰路を急ぐ。
一歩近づくごとに大きくなる自宅。後数歩、そんなところで俺の視線はある一点に釘付けになった。
その視線の先には玄関前でつっ立っている幼なじみの姿。シロガネ山にいるんじゃなかったっけ。
まさかいるだなんて思わなかったから思わず目を見開いて固まってしまった。
相変わらず何考えてんだか分からない顔をしている。そのくせに、そいつの瞳はいつだって強い光を帯びているんだ。
俺を見つけたあいつは口を開く。
「ボンジュール、グリーン」
「いや黙れ。つかお前こんなところで何してんだいつからいたんだなんのためにいるんだ!あと半袖!」
「ちょ、煩い。グリーンこそ黙ってよ」
「あぁ、わりぃ……って違うわ!またお前はこのクソ寒い中半袖で……!」
「それはグリーンがボンジュール言いまくってた時の心境と一緒なんじゃないかな」
「レッドお前マジ殴る」
軽く引きつった口元を見ながら、まぁまぁと無表情のままレッドがなだめる。
本当になんのために来たんだコイツ。……いや、聞くまでもないか。
「あれか?また食料無くなったのか?」
「うん、たかりにきたよグリーン」
「……ははは」
いやふざけんな。
毎度毎度食べ物が無くなると家へ来やがって……。お前結構たくさん食べるから毎回冷蔵庫空っぽになるんだぞ。
それと前家に来た時に俺のプリン勝手に食べた事は忘れねぇ。
こいつの顔を見るだけで漏れそうになるため息をこらえ、俺は自宅のドアを開け入るように促す。
追い返したってこいつは絶対帰らないし、なによりこんな寒い日に放置して風邪なんかひかれたら後味が悪い。
「入っていいの?」
「ダメだっつってもお前は帰らねぇだろ」
「ううん、今日は大人しくサヨナラバイビーするつもり」
「……なぁ、人の傷口えぐってそんなに楽しいか?」
そう言うとレッドは軽く頷く。そうか、お前はそういうやつだもんな。
あぁ、家に帰ったら寝ると言う俺の計画が台無しだよ。
玄関で靴を脱ぎながら、コーヒーとココアどっち飲む?と聞くとレッドは迷いなくココアと答えた。こいつ絶対ココアって答えるんだよな、嫌がらせにめっちゃ熱いやついれてやろう。
そう思いながら内心ほくそ笑んでいると、隣から聞こえてきた声。
「本当はね、」
「ん、なんだ?」
レッドがこちらを向くので俺もレッドを見返した。紅い瞳と目が合う。
「食料はまだたくさん残ってる」
「はぁ!?じゃあなんのために……」
「でもシロガネ山は寒いし、時々温かいものが欲しくなるから」
「…………うん?」
「…………鈍感バカグリーン」
ぷい、とそっぽを向いて前へ歩き出してしまったレッド。
なんだアイツ、そう呟いた俺が意味を理解するまで、後数秒。
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レグリのようなグリレのような。
121203
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