チェリーちゃん(1/1)




青い空。白い雲。舞う桜。


「代わり映えしねぇな」
言った所で変わるわきゃねぇか。
「なにが?」
見慣れた屋上の床に座り込んだ俺の隣に、これまた馴染みのプリンちゃん。
「えー、全体的に」
きつく結んでたバストラインの黒髪をほどいて笑う姿も、もう何回見たかな。如何にもっつーか――実際優等生のお嬢様なこの女が、そうじゃなくなる瞬間が好きだったりする。まぁ、その変貌っぷりにも慣れたっちゃ慣れたけど。変わったと言えば今日からブレザーとネクタイとスカートの色が変わる程度。男はズボンの色もグレー一色で、もっと代わり映えしない。しかも散々先輩の姿見てりゃぁ新鮮味の欠片がある筈もなく。
ぐるっと仰いだ空は、夏ばりに張り切って照りつける太陽に占有されてる。目の毒だ。あー、痛ぇ。そういや眠い。
「発ちゃん」
グロスひとつ塗られてない唇を舐める、のも嫌いじゃない。寧ろグロスよりよっぽどいい。
「んー?」
「手、止まってる」
ああ、そうだっけ?のろのろブラウスのボタンと戯れてた手が、少し伸びて磨いてある細い爪に引っ掻かれた。
「ねーぇ、やる気ないでしょ」
「スピーチ考え中」
「嘘」
あ、自分で脱いじゃった。いっかーこれも嫌いじゃないし。
「ねぇ」
急かす声が甘ったるくて、実んとこそれももう飽きがきてたりもするっつーかなんつーか。恋人となりゃ話は別なんだろうけど、生憎そーゆーモノに縛られる不自由な自由は性に合わない。
「どうせ外部のコ見たら手ぇだすんでしょー」
「どうだか…」
それはそっちもだろ、と、笑って言いかけて止まった。二年間俺しか入らなかった屋上に、影が出来たから。

信じらんねぇ。

目の前の女より信じられない見慣れない男は、それまた信じられないモノを見る目で固まってやがる。
赤くなってんだか青くなってんだか、パクパク動く口が音を紡ぐことは終にないまま。右手に似合わねぇ煙草。副流煙が風にさらわれる。
「だ…誰よ!?なにあれ!」
すっかりヘソ曲げちゃったプリンちゃんどころじゃない。

オーイ!ポイ捨てしてんじゃねぇぞこら。
随分わかりやすくグレてるソイツは、放り出した煙草を踏んづけ忘れて走って消えた。そっから察するに永遠にチェリーちゃんなんだろうなー。
思わず噴出したら、四階に降りる階段下で派手に転んだ音がした。

覚えてんのは今日から変わった赤いネクタイ。
ってことは、高校一年外部進学組み、ね。


end.


女遊びやさぐれ発ちゃん。これから変わってくれる筈…!設定の詳細は追々。
次回は天化視点です。
2010/10/31

photo by NEO HIMEISM

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