始業まで10分を切った朝。
「センセ、そろそろ席替えしたいさー」
一番に響く飄々とした声とざわめく教室。前の席の王サマは声にならない声を上げていた。
「…うーむ、期末前だがリフレッシュとするか」
ニヤリと笑う担任に沸き立つギャラリーと沈黙の王サマ。怒っているのはなんとかくわかる。剣道部に入ったからか、前より感じる怒りが大きくて鋭い。それが余計に嫌で仕方ない。
かかってくれば良いのに。ムキになれば良いのに。そうしたら、「なんの進歩もねぇさ」の一言ぐらい皮肉を言ってやれるのに。初めて逢った屋上だってそうだった。手が早い。ふざけたがる。遊び人。そう言ってやれるのに。昨日だってそうやって…
どんな因果だろう。ここまで来れば呪いだろうか。
「よろしくー天化ちゃん」
わざとらしく笑った王サマが右隣にいる。香水の匂い。
外れクジ引いたさ!そう言える訳もなく、噛んだ奥歯にぐるりと左に回る首。
「…蝉玉!」
死に物狂いの形相はいくら仲良しでも遠慮したい。
「なによっ」
「シャーペンの芯持ってるさー?俺っちの潰れちった」
「あんた馬鹿力で書くからでしょー」
左隣に逃げた。言いながらも芯を差し出してくれる蝉玉は、本当に本当に救世主だ。
「なぁ、俺も」
「蝉玉!問題集何処までいったさ?今日俺っち当てられっかも知んない!」
「んじゃあ自分でやってこいよな」
めげずに話す発に遮る天化の攻防戦。
「私もやってなーい」
「蝉玉!」
「もお!今度はなに!?」
教室の端から端まで勘違いの旋風は続く。内容は専ら蝉玉争奪戦。
土公孫に見切りをつけた蝉玉に、とうとう王サマこと発ちゃんと天化が動いた。
そもそも土公孫と蝉玉は本当に付き合ってるのか、いやあれは蝉玉の勘違いアプローチだろう、どっちかと言えば喜ぶべきは土公孫だ、ずるいそれなら俺も蝉玉、俺だって蝉玉、発ちゃんファンクラブどうなるの?ヤダー私天化狙ってたのに!
「俺の意見ムシかよ!」
叫ぶ土公孫の主張が誰より筋が通ったもので、他は勝手に走る伝言ゲーム成り果てた。
巻き込まれた方は堪ったもんじゃない。